《MUMEI》 独白. 「あのっ、大丈夫……?」 「あんたこそ濡れたんじゃないの?」 カーテン越しに問い返せば、「私は大したことないから……」と控え目に返事をされた。あの時、屋上へ現れたのは、教室へ戻らない私を案じていたエミリだった。 ヘタリと梯子の下に座り込んでいた私を発見した時の彼女は顔面蒼白で。どうして彼女がそんな表情をするのか不思議だったが、その時の私は何でも消えてしまいそうに見えたらしい。 そんなこんなで、慌てふためくエミリに支えられながら私は保健室を訪れていた。養護教諭は不在だったが、幸いにも私は保健委員だ。特に戸惑うこともなく、タオルを数枚とストックとして置いてあるジャージを棚から引っ張り出した。 そして今、私はベッドに付属しているカーテンを引いて着替えていた。枕元の柵に解いたスカーフを掛ける。ネクタイではないがそれさえも、先生を彷彿させられて辛かった。 「…………私さ、中学生の時にいじめに遇ったんだよね」 「え、」 セーラー服を脱ぎ、2つ折りに畳んでから同じように柵に掛ける。カーテンの向こうにいるエミリの表情は分からなかったが、驚いているのは声色で察することが出来た。 「馬鹿な父親の浮気が広まったの。それで、私も浮気癖があるとか、相当遊んでるとか散々な噂も立てられたし、周りは無視するか揶揄するかって感じだったし、友達も皆、離れていったし、最悪だった」 私に原因があるなら、直すように努力だってする。それなのに、原因は私自身じゃないのなら、一体どうすれば良かったのだろう。今ほど私も冷めていた訳ではないから、傷付くしかなかった。 『ごめんね、ごめんね、母さんの所為で、理緒に辛い思いさせてごめんね、母さんが悪いの、本当にごめんね、ごめんね』――勘付いた母親は泣き崩れて私に謝り続けた。 下着まで濡れていないことにホッとしながら、ジャージに両腕を通して頭を被せる。エミリはそこにいる気配はしていたが、何も言わずに黙ったままだった。 「知り合いが少ない高校選んで入学して、今度は上手くやってやるんだって誓って。亜梨沙達と仲良くなって、それなりに楽しく過ごして。でも、いつもいつも笑って、必死で自分作って。そんな毎日に疲れてたんだ」 それでも、独りぼっちになるよりはずっとマシだと思ってた。傷付きたくなくて、自分を守る手段を計算して取っていたのだ。 前へ |次へ |
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