《MUMEI》 帰路「いい加減泣き止んだら?」 「ごめっ……」 「どうしてあんたが泣くのよ」 それに対しても、エミリは「ごめん」と鼻を啜った。 相手がいようがいまいが半ば関係なく私は独白を続けた。ああ、これはもう先生を好きになっていたんだなと認めざるを得なくなったところで、私は喋るのをやめた。胸に何かが詰まっているような感覚は健在だが、自分の気持ちに整理はついたから、幾分か気は楽になっていた。 たとえ告白したって、"生徒として好き"と本気にしてもらえないか、本気に受け取ってもらったところで"ごめん無理"だ。だから、それは良いのだ。受け入れてもらおうなんて端から考えていない。私に残されたのは忘れるということだけだ。 腑に落ちると同時に、着替えも脱いだ制服の始末にも区切りはついていたので、私はシャッと白いカーテンを引いた。引いて、ギョッとした。ずっと静かに、時々相槌を打ちながら私の長過ぎる話を聞いていたエミリがポロポロと涙を流していたからだ。 本格的に泣いている彼女を前に、目にゴミが入ったなどという古臭い理由は頭から消え去った。そんなに泣くような話でもしたか?と怪訝がる私に、エミリはただ、かぶりを緩く振るだけだった。 そして、今に至る。現在、私はエミリと2人並んで帰路を歩いていた。1人でゆっくりと帰りたかったのだが、昇降口に着いた途端、そういう訳にはいかなくなった。私の傘が、なかったからだ。安っぽいビニール傘はどうやら盗まれてしまったらしい。 朝から雨が降りそうだったのに傘を持ってこないなんて、とんだ間抜けだ。そう思うも、自分もそいつのように、たとえ置き傘であっても盗みを働きたくはない。 しかし、また濡れて帰れば問題ないかと楽観する私をエミリは許さなかった。「風邪引いたらどうするの!?」と母親を想像させる口振りには、黙る他なくて。そんな経緯を辿り、私はエミリと所謂、相合傘と呼ばれるものをしていた。 「あんた、優し過ぎるよ」 「そんなこと、ないよ……」 「充分あるから。そんなに優しいと利用されるよ?」 見ていて危なっかしいからとこれまた世話を焼くような台詞に負け、私はエミリに送られていた。とは言っても、背丈の問題でエミリの花柄の傘は私が差しているのだが。 赤の他人の事情で泣ける奴は本当に優しい人間だ。私は、そうではない。 亜梨沙が「別れた」と言っても、美知が「振られた」と言っても、岬が、芽衣が「浮気された」と言っても、笑い話にしかならなかったなと今更ながら思い出す。本人が気にしていないように振る舞っていたからかもしれないが、友達ならば泣くまでいかなくても、一緒に悩んだり慰めたりするべきだったのではないか。まあ、彼女等を見ているとただ騒げれば良いみたいな感じは否めないが。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |