《MUMEI》

「俺を何処に連れていくつもりだ?」

俺の言葉を気に留める様子もなく、男は親指と中指を使い音を鳴らして出現させたウィンドウメニューらしきものを相当複雑に操作している。

「矢吹は何故俺の妹を特別に扱うんだ?」

先程の一言と同様に完全無視を決め込まれるかと思ったが、今回は違ったらしい。

動かしていた手を止めて此方にゆっくりと振り向いた。

「特別になんか扱ってない。」

「ログアウトを半強制的に禁止している今、ロスタイムに来れている時点で特別だ。それに、聞いた所によると矢吹は妹に直接会ったそうじゃないか。」

大罪人となった後にこんな事をしでかすなんて、特別と言わなければ何と言うのか。

「確かにそうだが、特別じゃない!」

やけに声を張った答えだった。

子供の様な素直な声色で、少し変わった赤目もどこか寂しそうに見えた。


「慶ちゃんの特別は俺だ!」


矢吹の統制が色々と判らなくなってきた。

志を共にするメンバーは皆アルテミスのように仲間意識が高いものかと勝手に判断していたが、そうじゃないらしい。

こいつの言動を聞いていると、まるで愛する父上の話をするように目を輝かせるからだ。

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