《MUMEI》

生徒が一人も見当たらず静寂と化した廊下を歩く瑞希が一つの扉の前で立ち止まりその中に入っていく光景を見た人はやはりどこにも居ないことだろう。








次に瑞希が出てきたのは瑞希が部屋に入ってから十数分後のことだった。


「失礼しました」


そういって一礼した後に扉を閉めた瑞希は生徒の居ない時間に呼んでくれた事にしみじみ感謝していた。



何故なら向こう側にいたときの瑞希は誰の目から見てもいつもの瑞希とは別人に見える程だったからである。


普段の瑞希といえば妙にヘラヘラとした笑みを浮かべるだけで礼儀がなっていないようにも見えてしまいがちなのだが、部屋の中に入った途端、その顔からは笑みが消えて瞳は相手を貫くような鋭いものへと化していた。


別人に思える事も不思議ではないのだ。



瑞希は人混みの中からやっと出ることができた人のように気疲れした様子でふぅ、と息を吐くとこれから何をしようかと考え込んだ。


数分間ずっとそうしていた瑞希だったが、やがてなにか思い付いたのかそれまで下げていた顔を上げて歩き出した。



まだ涼しげな風と共に瑞希は今となれば教職員しか残っていないであろう校舎を去っていった。

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