《MUMEI》
第一章
私が生まれたのは金持ちでも何でもない、肩書きだけを見れば普通の家庭だった。


父は仕事に追われ、家族を構う暇もなかった。

母も仕事をし、家にいる日なんて殆ど無かった。


私がいることで、生活が苦になっていく中、父の勤めていた会社は潰れてしまった。


「お前さえ居なければ」


そういった言葉を何百回も何千回も聞かされ続けていた。

自分は疫病神で、要らない存在なのだとそのたびに認識させられる羽目となった。


けど、それはまだ私にとっての『幸せ』だったかもしれない。


ある日突然、両親の態度がかわった。


父は私を一瞥することもなくただ、そこに在るものとして認識………いや、認識すらしていなかった。


ご飯がないのは当たり前。

喋りかけられないのも当たり前。

そこに“存在しない”のも当たり前。


私は父にとってただの背景だった。




一方母は虐待に手を染めた。


最初こそ痛かったが、慣れれば痛みなどは感じれなくなっていた。


帰って来れば殴られ、蹴られ、刺される事も別に珍しい事では無かった。


生きる意味もなくなった、存在理由さえも無い私は、ただサンドバックの如くされるがままになっていた。



勿論、そんな毎日で体が憔悴しない訳はなく。



その日、突然、何の前触れもなく(逆にあったらおかしい)私は両親に包丁で刺された。


憔悴しきった体は避けることすらできずただ受け止めるしか出来る事は無かった。


“生”に固執しないが故に“死”にも固執することは無い。


私は久々の鈍い痛みと共に意識を手放した________

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