《MUMEI》

「だったら、何が言いたいんですか?」


ねこは更に毛を逆立てます。


それはまるで大きな毛玉の様にも見えます。




「猫は猫でしょう?それ以外に何があると言うのです?」


「お前は気が短いな。」


「からかってるんでしたら帰ってください。」


「帰るって何処に?」


「家ですよ!あなたにもあるでしょう?」


黒猫が余りに当たり前過ぎる質問をしたので、ねこは呆れた様に言いました。



けれど黒猫は言います。



「俺には、家なんてものはない。猫にそんなものは必要ないんだよ。」


「家がなければ困るのではないですか?」



「家がある方が困る事もある。」


「…訳がわかりません。」


ねこは首を傾げました。

ねこにとって、家があるのは当たり前の事だったからです。



ねこは生まれてすぐに家を与えられていた為、そう思って当然なのです。



だから黒猫は教えてあげました。




「家があれば縛られる。」





黒猫はそれだけ言うと、また何処かへ去って行きました。



呼び止めるねこの声も無視して、黒猫の姿はあっという間に消えました。

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