《MUMEI》

「まぁ、それはとりあえず今はいいとして、矢吹の奴はいつまで俺をこんな所にお前と二人きりで居させるつもりだ?」

喧嘩腰な態度で赤目を挑発すると、案外(というか見た目通り)馬鹿なこいつは勢いに任せてカッとなってくれたらしい。

「てめぇ…馬鹿にするのも大概にしろよ…!此処がロスタイムだから良いものを…。」

「それで、あとどれ位で俺はお前を殴れるんだ?現実世界で。」

語尾のあたりで口の端をニヤリと上げれば完璧だ。

赤目は見事に俺にイラついたらしく、眉間に皺をこれでもかと寄せて此方を睨んでいる。

「二分だ、小僧…!それと、殴るじゃなくて殴られるの間違いだ。」

相当お怒りのようで、これが現実世界だったなら顔を真っ赤にしていただろう。

脳内でも口頭でも態度でも馬鹿にされたこの赤目は、単細胞馬鹿だな、きっと。

「お前、名は?」

いつまでも赤目だと流石に変なので、軽い気持ちで名を聞いてみた。

「ネプチューンだ。嗚呼、此処が海だったら、お前…カケルをボコボコにしてやれるのに。」

とんでもない形相で、とんでもないことを呟いた。

ネプチューンという名の通り、水中戦が得意なのだろう。

だが、今のところ公開されているMHOには海と呼ばれるエリアはない。ということは、こいつ…ネプチューンは現実世界の話をしているのか?

と、考えていたところで今度はネプチューンが口の端をニヤリと吊り上げた。

「MHOに海は存在するぜ?」

まるで俺の心を見透かしていたとでも言いたげな眼差しで、そんなことを言ってのけた。

「お前含むMHOのプレイヤーはまだ海エリアを見たことがないだろうな。海はゴール直前の大舞台だからなぁ。」

ゴール直前。

「ゴール直前、だと?お前はゴールを見た事があるのか。」

焦燥の素振りを見せると、ネプチューンは更にニヤリと口の端を吊り上げた。
十分に有り得る話だった。

こいつはこのゲームを作った側の人間で、俺の敵だ。

だが、いざ最終目標の存在を確固たるものとされると、言葉では形状不可能な不安と高揚に包まれた。

「だから、お前と闘うのはその時だ。俺は基本、海でしか闘わない。」

アルテミスの時と同じだ。`次´の話をする時の、この瞳。


怪しく美しく、吸い込まれそうな程純粋に、俺を殺そうとする目。


鳥肌を止めることが出来ずにいると、不意にネプチューンの開いたままだったウィンドウメニューが画面一杯に赤く点滅し出したのが目に映った。

二分、あっという間に経ったらしかった。

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