《MUMEI》 神名晴の話。その8実際のところ、アテはあった。 昔暮らしていた叔母さんの家だ。 だが、叔母さんとの仲は未だに解消しきれていない。 つまり、苦渋の決断だ。 犠牲とか、そういうつもりでは一切ない。 あの時よりも、僕は成長した。 だから、叔母さんともうまくやってみせる。 それで晴姉さんが幸せになるなら、それでいい。 学校は転校しないといけないけど……仕方がない。 悔いはある。けれど……仕方がない。 善は急げ。 叔母さんに電話する。 3コールくらい鳴って、出た。 コール中バクバクいっていた心臓は、電話が出た瞬間にピークに達した。 本気で吐きそうになった。 「神名です」 叔母さんの声。 「あ……、か、薫……です」 「……薫くん?」 「お、お話があります!」 後半声が裏返った。 実は……、と話す直前、受話器の奥から聞き覚えのある声が聞こえた。 その声はこう言っていた。 「え、薫!?ごめん、代わってもいい?」 ……え、まさか……。 前へ |次へ |
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