《MUMEI》 神名晴の話。その10「薫!!」 晴姉さんが帰ってきた。 僕は現在進行形で土下座中。 「……顔上げな、薫」 「は、はい」 この声のトーンは……。 覚悟を決め、歯を喰い縛る。 顔を上げ……。 その光景は、口にしにくい。 まず、晴姉さん。 片足が見えない。 サッカーのフリーキックでよく見る態勢。 察した。 歯……食い縛っておいて……良かった……。 「ぼへっ」 僕のアゴに晴姉さんのつま先(in 靴)がクリーンヒットした。 「痛い……」 「まだ私の気持ちは収まってなんかない」 「晴、落ち着いて」 僕の胸ぐらを掴む晴姉さんを、天馬さんが窘める。 「……え、天馬さん?」 「やっと気付いたの?」 そりゃあずっと殴られてたら、周りは見えないよ。 「……馬鹿。いつからあんなこと思ってた?」 あんなこと……。 「えっと……、天馬さんに会ってからだから……昨日か一昨日くらいかぶっ!」 話中に殴るなんて……。 「は、晴!」 殴った直後、柔らかくて、温かくなった。 「晴……姉さん……?」 抱きしめられた。 「ヒグ……、う……」 泣いている。 体の震えが、直に伝わってくる。 「……馬鹿!!誰があんたのこと邪魔って言ったのよ!誰があんたがいなくなることで私が幸せになるなんて言ったのよ!!」 「……僕が……勝手に考えてた……」 「あまり仲の良くない叔母さん家に追いやって私だけ幸せになんて……出来るわけないじゃないっ!!」 僕の中の何かが……壊れた。 氷解した、みたいだった。 「……う」 ここにいて、良いんだ。 「うあ、ああぁぁぁ……」 すごく、嬉しかった。 前へ |次へ |
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