《MUMEI》
神名晴の話。その11
どれくらい泣いていただろうか。
姉さんとこんなに泣いたのは、両親が他界した時以来かもしれない。
色々と、思うことがあった。
晴姉さんが結婚するとか、天馬さんが面と向かって僕に晴姉さんを愛しているとか、そういうのを全部……僕は嫉妬していたのかもしれない。
それなら、この胸のモヤモヤの説明がつく。
意識し出したら、なんだか恥ずかしい。
これだけは、絶対に晴姉さんにバレたくない。
「……いい子だね、薫くんは」
天馬さんが呟く。
「でしょ?自慢の弟だよ」
袖で涙を拭き、もう片方の腕で僕の頭を撫でる。
「しかも晴に似て、可愛いところもある」
「可愛い?」
……なんだと?
「あの日僕と話した時、少し態度が悪かったのは、僕に嫉妬してたからなんだろう?」
「なっ!?」
何を言うんだこの人!
「え、薫?」
「あ、いや、違っ」
……。
「…………違わない。ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
天馬さんは僕の頭をぐしゃぐしゃと、さっきの晴姉さんよりも強く撫でる。
……絶対根に持ってる。
……あ、そうだ。
言わなきゃいけないことが、あったんだ。
「晴姉さん、天馬さん」
二人の顔を交互に見る。
「結婚、おめでとう」
あの日言えなかった言葉を、言えた。
晴姉さんは泣きながら。
天馬さんは笑いながら。
「ありがとう」と言った。

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