《MUMEI》

部屋の中にはレオナルドと燕尾服を着た身長の高い黒髪の青年がいた。
(だ、だれ!?)
「お父様、そこにいるのはどちら様?」
「彼?今日からフローラと深く関わる方」(この人が…、私と…?)
「そう、フローラ専属の執事…と言うか、ボディーガードと言った方がいいかな?」(ぼ、ボディーガード!?)

 黒髪の青年はレオナルドと並んでいると、レオナルドが若く童顔なため、兄弟のように見えた。目を凝らして見ると若干黒髪の青年の方が身長が高かった。
「レオン殿、あの子が私の娘のフローラ」
(お父様!他人に私のこと教えないで!)
 フローラは自分の名前を自分以外から他人に知られることをあまりよく思っていない。初対面の人なら、尚更よく思わない。「フローラ様?」
「ひゃあっ!?」
 いつの間にか黒髪の青年が目の前で跪き、フローラの見上げていた。
 じっと彼と見つめ合っていた。しばらくして。
「はじめまして、フローラ様。私はレオン・アストレア、本日から貴女の執事となります。どうぞ宜しくお願い致します」
「こちらこそ…宜しくお願い致します…」
 フローラはレオンに対してぎこちない挨拶しかできなかった。
(…真面目そう…。って、私何考えるの!?)
 レオンの黒い瞳に自分はどう映っているのだろうか。
 フローラからすると彼は何ごとにも誠実そうに見えるが、そう見える人に限って後から下心を露わにする。だから家族と使用人以外の男性には気を許すことができない。
(私のこと、ヘンな目で見てるんだろうな…。男は皆、“オオカミ”なんだから)
「そんなにじっと見つめて…顔に何か着いてますか?」
「…な、ななな何も着いてませんっ!」
 どうやら、ずっとレオンを見つめていたらしい。慌ててレオンから目線を外した。(だって…。いや、何でもない!)
「フローラ、レオンに自分の部屋に案内しておくように。いいね?」
「…はい」
(男を自分の部屋に入れるだなんて、イヤすぎる!)
 フローラはレオナルドに小さく返事をした。その場しのぎのために、仕方なく。

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