《MUMEI》

三階にあるとある部屋では少し小さめの声が響いている。


現在瑞希と翔がいるのは今ではもう誰も使わなくなった図書室である。


「_______だからこうなります」

「おぉ、なるほど」


翔が感心したように瑞希を見る。
やはり頭の回転は早いらしくすぐに覚えていっている。
要は勉強方が悪かっただけなのである。


「……なぁ」

「?はい」

「なんでこれだけ俺に教えれるのにお前はD組なんだ?」

「……それが実力だからですよ」


真面目な顔で聞いてくる翔を軽くあしらい、自嘲気味た笑みを浮かべた。


瑞希は決して目立つことを許されない。

____それが運命なのだから。



「俺は、天才な奴に憧れたりはしない。俺は追い付けそうで追い付けない人を憧れる。……今のお前は俺の憧れだ」


本当に真面目に言ってくる為、瑞希は少し胸が痛んだ。


「…ひとつ、忠告です。私は先輩に憧れられるような人物ではありませんし、私のことを知れば失望するかもしれません。……私は、そんな大層な奴じゃ……ありませんよ?」


クスッと意味深に笑って見せて瑞希は立ち上がり図書室から去ろうとした。
去った、ではなく。


「俺は!」


翔の声を聞いてぴたり、と足を止めた。


「俺はお前を憧れの対象として見続ける。俺は“今のお前”を否定しないし、失望なんてしない。
…お前を知る?馬鹿か。俺はお前を知ってる。……お前は、お前だろ?」


珍しく必死な翔に瑞希は、いつものように笑って、


「私は、………私であってはいけない。……なんて!ありがとうございます」


一瞬その笑顔が崩れたのを翔は見逃さなかった。


後に残された翔は真剣な顔でさっきまで瑞希が座っていた場所を睨みつけるようにして見つめていた。


「…私は私であってはいけないって………どういうことだよ……」


何もない空間に悲痛に歪んだ声で問いかけるがやはり、誰かがその問いかけに答えをくれる事はなかった。

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