《MUMEI》

陽向ですら一瞬目を奪われた彼はあっという間に女子生徒達に囲まれてしまった。


それでも陽向のいる席から見えた彼は、ゆったりと肩に流れる位の長めの黒髪に綺麗な翡翠色の瞳の持ち主で人間離れした美しさを持っていた。

…いや、彼は人間では無いのだろう。

陽向は兄達とは違い、ある程度強い吸血鬼や獣を察する事はできない。


そんな陽向がそう感じたのは彼が弱いからではなく、恐らく強すぎるから、という表現が一番あっているだろう。


その時不意に彼の目がこちらに向いた。
一瞬、能力持ちとばれたかと焦ったがそんなことは無いはずである。
有能な能力制御のおかげで誰にも察せられる事は無いのだから。


その事を裏付けするようにすぐに彼の目は反らされた。


教卓にいることから教師であることが分かる。
陽向にとっては実に嬉しくない話である。


「センセー、名前はなんて言うんですかー?」


その時一人の女子生徒がそう質問した。


「轟 犂と言います」


陽向はその言葉に驚いていた。

轟先生の声があまりにも美声すぎたからとかではなく、彼の名前が日本人の名前だったからだ。


吸血鬼の産地と言えばおかしな言い方だが有名なのは知る人ぞ知るルーマニアだ。
吸血鬼はそこで生まれ、代々その地で子孫を増やしてきていた。


その吸血鬼が日本人の姓であるという事から考えられるのは一つ、彼が日本人の両親から生まれ、その上更に、当時一番強いとされたであろう吸血鬼が二人を吸血鬼にするために血を吸ったであろう二人の男女から、ということである。


イコール彼は純血、ということだ。


吸血鬼達には階級がある。
一番上に吸血鬼同士の純血。
二番目に吸血鬼から造られた吸血鬼同士の純血。
三番目に吸血鬼と人間同士の混血。


ただ、混血だから下の階級という訳でもないらしく、強ければそれだけで上にいける。

恐らく彼は階級は一番上の方である、『貴族』と称される位の人物だろう。











「陽向ちゃん?」

「…え?」

「ボーッとしてたから。大丈夫?具合悪いとか?」

「…大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


間宮 千尋。
恐らく彼女も能力持ちだろう。


危険はなるべく避けたい陽向だが、中々難しいものとなりそうだった。


陽向は扉から入ってくる見知った顔の青年を視界にいれながら少しうーん、と考えこんでいた。

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