《MUMEI》
水原 宗明(2)part2
<僕は、できれば下品なことはしたくない。でも、やっぱり無理なのかな……>
―――――――――――音をたてずに相手の背後の木の上にたどり着き、下を見る。気付いてる気配は―ない。そのまま飛び降りて刀を振り下ろし、(―とった!)と思ったのも一瞬。
ガキンッ!
(止められた!?)
「おいおい危ねーなぁ。死んだらどうしてくれるんだよ」
「食べる」
「へぇ、食べるのか……ん?食べる?お前本気で言ってるのか?」
「ああ、そうだ」
「なんで俺がお前に食べられなけりゃならんのだ」
「僕は、泥棒とか無銭飲食とか……対価を払わない生き方はしない主義なんだ」
「俺はお前に食われる対価を貰ってないんだが」
「何言ってるの?あなたは僕を殺そうとしてる。それだけで十分でしょ?」
「………」
「食料や服やお金はおまえらみたいに僕を殺しにきたやつからもらう。死人には必要のないものだし、ちゃんと命を賭けてるから対価も払ってるし。勝ったから得る。負けたから失う。それだけだよ」「お前……自分がどれだけヤバいかわかっているのか?」
「あはは、僕みたいな子供を殺そうとするおまえらの方がよっぽどヤバいと思うけどねぇ。でもこのやり方が一番誰にも迷惑をかけないでしょ?」
「………」
「あれ?どうしたの?足が震えてるよ?怖じ気づいたの?」
「…死ねっ!」
そう言うと男は襲いかかってきた。武器はナイフ。よく使い込まれている。
(右からの攻撃が多いな…)
僕は動きをよくみて、的確にはじき返す。次にゆっくりと……木の根が盛り上がっているところに誘導する。(気づかれないように……)慎重に動く。そして男は足をとられてつまずいた。
「くそっ!なんだよ!」
その隙を逃さず、僕は飛びかかる。男は悲鳴をあげてもがくが、
「――うるさいよ」と、
心臓に、垂直に刀を突き立てる。男は痙攣し、血を吐きながら何かを言おうとして…やがて動かなくなった。
僕は立ち上がると、両手を開いて…握る。開く。そして見つめる。刃を突き立てた時の感触と、それでも動こうとする心臓の手応え。最初は気持ち悪いと思っていたが、もう慣れてしまった。むしろ心地良く感じる時もある。生きていると実感できるから。
(僕は、もう壊れちゃったのかな……)
―――問いかけに答える者は、いない

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