《MUMEI》

視界が暗転したかと思うと、即座に光に包まれた。

目が慣れていない為か、色味が上手く掴めずに言い知れぬ不快感に襲われた。

まだゲームに入って二日目だが、それだけでも身体はこうも不調を訴えてくる。

入院をしたことが記憶も無い様な頃でしかない為、何日も続けて眠り続けるという体験は俺にとって珍しいことだった。

まぁ、ゲーム内ではずっと動き回っているんだが。

「お目覚めか。」

すぐ近くで、俺の嫌いな声がした。

「やぅ…ゲホ……矢吹……!ゴホッ…!」

一番話をしたかった相手だったというのもあって通常以上に大きな声を出そうと思ったが、思った以上に喉が渇いていた。

上手く声が出ないままそれでも尚呼ぼうとすると、喉に焼けるような痛みを感じた。が、それでも声を出した。

「そう慌てるな。どうせ動けないぞ?」

「あんだ…と…!」

変わらず焼けたままの喉で反抗をし、座っているらしい椅子から立ち上がろうとした瞬間、腕が椅子に拘束されている事に気が付いた。

五センチも無い位しか腕が椅子から離れない。

そこでふと視線を自らの腕に落とすと、漸く視界が安定してきた。

手錠や縄の様なものではなく、俺が座っている椅子自体が人間を拘束する為のもののようだ。

身体中を少し揺すってみても、全体として外れる気配は皆無だ。

首、腕、肩、腰、膝、足首がしっかりと固定されている。

「状況の理解は済んだかな?」

大して広くも無い部屋の小さな雑音や機械が自然と発する小さな音などを、その一言は全て打ち切った。

矢吹を見ると、世界はコンマ一秒で区切られた。

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