《MUMEI》
泉佐野明日香。
1月、冬休みが終わった。
多くの日本に住まう学生達は、その時をもって冬休みという非日常から日常へと帰還する。
ボク、佐久間新斗も勿論例外には漏れていない。
大抵の学生達は大型連休明けには、怠惰な生活を堪能した反動で気怠さが残り、猫背のまま学校へと向かう。
それに関してだけは、ボクは例外から漏れる。
生徒会副会長に推薦されてから、約半年が経つ。
慣れない生徒会活動も徐々にこなせられるようになり、冬休み前には兼部すらできるようになったほどだ。
他の学生達とは違い、やる気に満ち溢れている。
7時25分。
今日は始業式で、部活動の朝練は無い。
静かな学校の校舎を見つめる。
恐らくボクが全校生徒の中で一番乗りだろう。
校門をくぐり、小さく心の中でガッツポーズ。
なんだか、気持ちがよかった。



「おはよう、佐久間くん」



「…………おはようございます、会長」
ボクの優越感はたった3分で打ち砕かれる。
生徒会室には、生徒会長の泉佐野明日香がいたのだ。
この人は自分の直感で動くタイプ(風影と似たようなタイプ)で、まだ中1のボクを生徒会副会長に推薦した張本人だ。曰く、こいつは近い将来大物になる、らしい。つまり、かなり行動派のエキセントリックな人だ。
「いつも朝は早いが、今日は更に早いな。何か用事でもあったのかい?」
「……いえ、今日くらいは会長よりも先に登校してやろうって思っただけです。完敗ですが」
普段会長は登校時は校門前で仁王立ちし、生徒指導の教師と共に生徒の服装チェックを行っている。
校門前にいなかったから、勝ったと勝手に思い込んでしまったというわけだ。
……なぜか再び気分が沈んだ気がした。
「ははは、それはすまなかったな。私は生徒会長だ。部下よりも遅く登校するなど、メンツが潰されるだろ」
無駄な話をしていても、会長は書類から目を反らさない。
「誰もあなたを潰そうだなんて思いませんよ。それがたかがメンツだったとしても」
「君は、どうなんだい?勝とうとしたんだろう?」
ここで初めて会長はボクの顔を見た。
一瞬の沈黙が、この生徒会室の空気を覆った。
「……今完敗したばかりじゃないですか」
それもそうだったな、と会長は鼻で笑った。

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