《MUMEI》

母の背後の暗い雑木林の中に、無数の影が佇むのが見えた。
まるで地蔵のように佇立する黒い影の群れは、顔形もさだかに見えないが、想と同年代くらいの子供達の影のように見えた...。



父の実家は周りの田園風景にマッチした、これもトトロの映画にでも出てきそうな、かやぶき屋根の大きな屋敷だった。
玄関先では待ちかねたように祖父母が立っていて、想達三人の家族を出迎える。
「あんれま、また大きくなったなー」
祖母が想をグッと胸元に抱き寄せると、
その傍らで白髪をパンクロッカーみたいに逆立てた祖父が、
「来年こっち来るときゃ、三メートルくらいになっとるんじゃないか。
ガハハ」
と笑う。
絶対無いから。
心中で言いながら、想は意外に強力な祖母の腕の中でもがいた。
「ぐ...ぐるじぃぃ!
お婆ちゃん、窒息しちゃうよお!」
「ふぇっふぇっふぇっ!放しはせぬぞ。このままババと一緒にあの世に昇天するんじゃ」
「出たな。婆あの忍法カニ挟みが!
ガハハ」
「いやあ!」
「ふぇっふぇっふぇっ!ジョークジョーク。ごめんねごめんね〜」
「親父とお袋、相変わらずだな」
この親から何故この息子が、と言いたくなるような想の父の生真面目顔には眼もくれず、
「親戚ももう揃ってるぞ、ささ、上がんなせ!」
祖母は玄関の戸をがらがらと開けて、さっさと土間に入っていく。



土間にはすでに夜の闇が忍びこんでいた。
奥の壁に農作業用の器具が立て掛けてあるのが、まだ屋内の暗さに完全に慣れてない想の眼にぼんやりと捉えられる。
斜めに立て掛けられた鍬(くわ)の横を見た想は、あっ!と声を上げそうになった。
そこに黒い小さな人影が佇んでいるように見えたからだ。
だがよく見るとそれは農作業の器具が作り出した影のイタズラだった。



「何じゃ?」
「ううん、何でもない」



土間を横切ると、一階の廊下に上がる小さな階段の下で靴を脱ぎ、祖父母と想達三人の家族はみしみし床を軋ませて歩きながら、奥へと進んだ。
廊下の両側には和室に続く障子が幾つも並んでいる。
左手一番奥の方の障子の向こうから、すでに到着しているらしい親戚達の話し声や笑い声が聞こえてきた。

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