《MUMEI》
消失
 ―あれから数時間後。咲耶は帰路を辿っていた。
(鬼灯、無事でいるかな…。待ちくたびれていないかな?)
 何より留守番をしてくれている鬼灯のことが心配だった。最近家に帰ると彼女と悪鬼が戦闘を繰り広げているからだ。
(無事でありますように。鬼灯待っててね)
 咲耶は鬼灯の無事を祈りながら先を急いだ。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
「ただいま〜」
 咲耶は家の鍵を開けて中に入った。
「咲耶ーーーーーッ!!!」
「鬼灯!?」
 その瞬間、鬼灯が自分の名を叫んだ。
(どうか無事でいて―!)
 咲耶は家階段を駆け上がり、2階にある自分の部屋へと急いだ。



『いつまで抵抗するつもり?』
『咲耶ハ鬼灯ガ守ルンダ…!』
『本っ当にウザイね。それでも抵抗するって言うんなら』
 ―――ドゥンっ!
 何かが当たった弾けるような音がした。
『ア゛ァ』
「鬼灯!?」
 咲耶は勢いよく部屋のドアを開け放った。
「っ!?」
 咲耶は部屋の中を見て絶句した。
 部屋の中は鬼灯の紅い血がいたるところに飛び散っていた。部屋にいる10体の天邪鬼に攻撃されたからだろう、鬼灯は全身に深い傷を負っていた。
「咲耶…逃ゲテ…―」
 どさり、と鬼灯は倒れた。咲耶は彼女もとへ駆け寄り、そっと抱き起こした。
「漸く来てくれたね、“巫女姫様”」
「誰!?」
 咲耶は部屋のドアと真向かいにある窓を見た。
(悪鬼―――!)
 窓のサッシには額に2本の角の生えた色白の美青年が腰掛けていた。彼は左目から顎辺りにかけて何かに引っ掻かれたような傷跡があり、ところどころはねている白銀の髪を左肩辺りで緩く紐で結っている。瞳は紅みを帯びた紫色で妖しい雰囲気を漂わせていた。どうやら天邪鬼達のリーダーらしい。
「鬼灯に何をしたの!?」
「キミの居場所を教えろって言ったらさ、全然教えてくれなくってぇ…。そいつらに攻撃されても、全っ然口開かなくってさ」
「だからって攻撃する必要はないでしょう!?」
 咲耶はサッシに座っている彼を睨み付けた。
「何その眼…ボクにソイツ同様反抗する気?…まぁ、いいさ、ボクはキミに用があって会いに来たのだから」
「…用って何よ」
「…♪」
 彼はニタニタと微笑みはじめた。
「…焦らさないで早く言いなさいよ!」
「まぁ、そんなに焦らないでよ?」
 咲耶は彼の態度に対し、怒りを募らせていく。
「いいよ、おしえてあげる。でもその前に邪魔者に消えてもらわなきゃ、ね?」
 彼は鬼灯に視線を向けた。
「鬼灯に手を出さないで!」
「…やだね」
 彼は右手を鬼灯の方に翳し、気を集中させる。それは肥大化し、直径1m程の火炎弾となった。
「消エロ」
 彼がそう呟いたと同時に火炎弾は鬼灯目掛けて放たれた。
「咲耶…今マデアリガト」
 鬼灯は咲耶にできる限り笑ってみせた。そして最後の力を振り絞って火炎弾目掛けて咲耶の腕から勢いよく飛び出した。
「咲耶ハ鬼灯ガ守ル―ッ!」
「鬼灯、避けて!」
(鬼灯、どうか無事でいて―――!)
 ―ゴォッ!!!
「ア゛ーーーーーーッ!!!」
 鬼灯は火炎弾に正面衝突し、身体を焼かれていく。そして灰塵となり風に舞う。
 それは鬼灯の消滅を意味し、咲耶の願いは儚く散った。
「そ、そんな…」
「アハハハハ!これで邪魔者は消えたね」
 彼は狂ったように笑いだした。
 ―――プツリ。
 咲耶の中で何かが切れた。
「…さない」
「どうしたの?そんなに眉間に皺寄せちゃって」
「許さない!鬼灯をよくも殺してくれたわね!」
 咲耶は怒りで我を失い、彼に殴りかかった。
「そんなの無駄だよ」
 彼はあっさりと咲耶の拳を片手で受け止め、そのまま咲耶を壁に投げ飛ばす。
「ア゛…―」
 咲耶は壁に打ち付けられ、激痛が咲耶を襲う。
「抵抗はよしな。それでも刃向かうなら容赦しないよ?」
 我に返ると目の前には彼がいた。
「大人しくボクについておいで?傷の手当てだってちゃーんとしてあげるから、ね?それでも嫌というのな」
「そこまでだ、茨木童子(イバラキドウシ)!」
(誰…?)
 彼の言葉を男子の声が遮った。

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