《MUMEI》 救済声の主は窓から入った来た。 「あーあ、また邪魔者が増えたねぇ」 「それはこっちの台詞だ」 咲耶の目の前にいた茨木童子が離れたため窓から入って来た青年がよく見えた。 彼は漆黒の髪と瞳をもっていて、角は生えていない。右目は長い前髪に被われていて口元はマフラーらしき長い布で隠されている。服装は大正時代の学生が着てそうな和服で、率直に言って時代遅れな格好だった。 「悪いけど、“巫女姫様”はボクらが貰うよ。邪魔するなら容赦しない。たとえ“教え子”でもね!」 茨木童子は時代遅れの青年に殴りかかった。しかし彼は茨木童子の拳を難なくかわし、顔面に回し蹴りを食らわせた。 「なかなかやるねぇ〜♪でも“朔夜(サクヤ)”クン、まだまだだね」 朔夜と茨木童子は咲耶の前で闘いを繰り広げている。まるで映画の戦闘シーンをみているようだった。双方、力は互角でなかなか決着が着きそうにない。 (あーあ、終わりそうにないなぁ) 咲耶は2人の様子に呆れ果てていた。 「あのぅ…」 「なんだい“巫女姫様”?」 「この隙に」 ―バコッ!!! 「ッぐ」 茨木童子は朔夜によって殴り飛ばされた。咲耶はぼーっと飛ばされる茨木童子を眺めていた。 「…ケガはないか」 振り返ると朔夜が咲耶のすぐそばにいた。 「…」 「茨木童子に何かされなかったか」 「さっき飛ばされたヤツに…?」 「あぁ」 ―ズキリ 「っ!」 咲耶はさっき茨木童子に壁にぶつけられた時に強打したところが痛んで、顔を歪めた。 「背中か」 咲耶はこくっと頷いた。 「うぅ…」 痛みはどんどん増していく。堪えきれなくなりなり、朔夜にしがみついた。 「ごめんなさい…」 「無理はするな」 朔夜はそっと咲耶を抱え上げ、ベッドにそっとおろした。 「俯せになれるか」 咲耶はゆっくりと俯せになった。 「こう…?」 「あとは楽にしてればいい」 朔夜は懐から小さな壺を取り出し、栓を開けて中の軟膏を指先で掬い取った。その壺は近くに置き、咲耶の制服を捲った。 「何をするの…?」 「薬を塗るだけだ」 朔夜は咲耶の制服の中に手を入れた。そしてそっと軟膏を塗り付けた。 「冷たっ!」 朔夜はやさしく軟膏を塗り込んでいく。 (痛くなくなってきた…) 軟膏の効果で背中の痛みはすぅっと和らいでいく。すぐに痛みはなくなった。 「まだ痛いか?」 「もう痛くなくなったよ」 「そうか」 「ありがと」 咲耶は朔夜の方を見た。彼は照れているのか、湯気が出そうなくらい顔を赤く染めている。彼はハッとしてそっぽを向いた。 「朔夜…?」 咲耶は然り気無く彼を呼んでみた。 「…何だ」 「助けてくれてありがと」 「…別に」 (そういえば…) 「朔夜…茨木童子の言っていた“巫女姫”って何のこと?」 「アンタは何も知らないのか」 「うん、初めてきいた」 「それは…」 咲耶は息をのんだ。 前へ |次へ |
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