《MUMEI》

「……お母さん、居なく、なっちゃった。さっきまで、一緒に居たのに」
何処に行ってしまったのだろう、と声を上げ泣き始める
この夜の黒の中、消えた母親
単なる迷子かもしれないとは思いもした
だが嫌予感ばかりがどうにも消えてはくれない
「お嬢ちゃん、お母ちゃんとは何処ではぐれた?」
泣き続ける中、ん駄目てやる様にまた頭を撫でてやりながら問うてやる
暫くそのままで居ると、何とか少女も落ち着きを取り戻し
肩をしゃくり上げながらも離す事を始めてくれた
聞けば母親と二人買い物に行った帰り
少女がきれいだと星を見上げ、そして振り返った時にはもう居なくなっていたとの事だった
「……わっからんなぁ」
聞いては見たがさっぱりわからない
取り敢えずは泣くばかりの少女を連れ、母親が消えてしまったらしいその場所へと言ってみる事に
そして到着したソコは、花街・遊郭の前だった
「此処で、すごく暗くなったの。ソレで、お星さまがいっぱい綺麗に見えて……」
その星空に見入っているうちに母親は消えてしまった
矢張り、此処に何かがあるのだろうか
日和が居るだろう天守を見上げ、播磨は舌を打つ
「……お母さん、お母さん――!」
だが今は傍らで泣き崩れるこの少女をなんとかしてやるのが先だ、と
少女の髪を柔らかく梳いてやり、そして抱え上げた
「……取り敢えず、今日はウチに泊まりぃ」
母親を探すのは明日にしよう、と
播磨は少女を荷物宜しく方へと担ぎ上げると改めて歩き出す
自宅へ吐くまでの間少女は一言も言葉を発さず、唯しゃくり上げるばかり
こういう時、慰めの言葉など持ち合わせていない播磨には何も言えない
そんな自身にもどかしさを覚え、播磨は舌を打った
「あれ、志鶴君?」
自宅前へと到着すれば、偶然にも知人に会い
相手は少女を連れた播磨を、どうしたのかと小首を傾げながら見やる
事の成り行きを説明するのも面倒だと思いはした
だが相手も無関係ではない、と播磨は離す事を始める
「……そか、その子も――」
粗方を話してやれば相手の表情が曇る
やはり自分と重ね合わせてしまって知るのだろう、顔を伏せてしまった
「ね、志鶴君」
「ん?」
「こんな事、誰が何のためにやってるんだろう」
漸く顔を上げたかと思えばそんな言の葉
それが分かればすべてを終わらせられるのに
そう気負ってしまう相手に
播磨は僅かに肩を落とすと頭に手を置き、髪を掻いて乱していた
「わっ!?何すんの!?志鶴君!」
「自分がシケた面するからやん。あんま考え過ぎるとあっという間に禿げるで」
「……志鶴君には、言われたくない」
「何やん、それ。何かそれやと俺が禿げとるみたいやん」
「多分、そんな遠くないよ」
禿げる日は、と続ける相手へ
播磨は頭を撫でてやっていた手を頬へと移し、そのまま抓り始める
「そんなん言うんはこの口か。クソ生意気なガキんちょが」
「痛っ!志鶴君、痛いってば!!」
余程痛いのか、何とか播磨の手をどけようと試みる相手
そんなやり取りを暫く続けた後
相手が不意に、黙り込んだ
どうかしたのか、顔を覗き込んでみれば
「……どうしたら、志鶴君みたいに何かできるんだろう」
「はぁ?」
徐にそんな呟き
行き成り何を言い出すのかと訝しんでやれば
「……俺も、何かしたい。(夜)になんて、負けたくない」
何かを決意したかの様な、引き締まった表情
初めて見る相手のその顔に、播磨は僅かに肩を揺らし
「自分も、一人前の口聞く様になったなぁ」
感心するように相手の頭を撫でてやる
子供にしてやるようなソレに相手は照れ、播磨の手をやんわりと退けた
「……俺、もう子供じゃないし」
「俺からしてみればまだ子供やん」
僅かに笑みを浮かべてやれば、相手の表情が更に硬いソレに変わる
子供という言葉に機嫌を損ねてしまったのだろうかと、播磨が顔を覗き込めば
「……子供じゃ、ダメなんだよ。俺」
言うや否や相手は身を翻し、突然に走り出した
何処へ、行くつもりだろうか
不意に嫌な予感が脳裏を掠め、播磨もその後を追う
「ちょい待ち!自分!」
何とか追いつき引き止めてやり
播磨は相手の前へと膝を折り、その顔を覗き込んだ
「何しに行くつもりや?」
尋ねてみるが返答はない

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