《MUMEI》

行ってみるしかないのだろう、とメリーは溜息を吐くとその後に続いていた
ソコに広がるのは何もない、唯広がる黒
その中を先に歩く獏の後ろ姿だけが仄かに光る
どこまで行って、そしてその先に何があるのだろう
何も見えないと分かっていながらもつい周りを見回してしまうメリー
漂う黒の中、微かに何かを気配を感じる
その気配に改めて周りを見回した、直後
ゆらり、白い影のような何かがメリーの周りに現れた
一つ、二つ、三つとそれは数を増し
その全てが波打つように蠢いている
「 ――!?」
それは益々その数を増やし、雪崩れる様にメリーへと近く寄る
突然のソレにメリーは避ける事が出来ず
影が成すその波に飲み込まれてしまっていた
苦しい、溺れてしまいそうだ
呼吸すら許さない圧迫感の中
メリーは人影が一つ、同じように漂っている事に気付く
纏わりつく影を何とか押し退けてやりながら、その人影へと近づけばそれは妹
この状況下にありながら穏やかな顔で寝入っていた
「……夢喰いさん、どうしてここに居るの?」
ゆるり目を開け、メリーの方を見やる
メリーは深く溜息を吐いて見せながら
「君こそ、なんでここに居るの?」
だが問いに対する返答はせず、逆に問うてやった
妹はそんなメリーをまじまじと見やった後
「だって、此処は私の夢の中だもん」
すごいでしょ、と満面の笑みだ
随分とおどろおどろしい夢を見るものだとメリーが辺りを見回せば
何もなく、だが酷い違和感ばかりが漂うソコに
突然、遊園地によくあるメリーゴーランドが現れた
あからさまなその違和感にメリーは身構えるが
「……私の、お馬さん」
少女がまるで引き寄せられる科の様にそちらへと歩み寄る
馬へと伸ばされたその手を、白い影が掴んだと思えば
それは直ぐに、ヒトの形を成した
ナイトメア
見えてきたその姿に表情を歪めてしまえば、そのうちに嘲笑が聞こえてくる
「……この娘の夢はいいぞ、夢魔。最高にいい悪夢だ」
はっきりと姿を成すなり、ナイトメアは少女をその腕へと抱き込んだ
「……その子、どうするつもり?」
問うてやればナイトメアは口元にニヤリ嫌な笑み
そして
「知りたければ、俺を捕まえてみろ」
言うと同時にその姿は消える
いい加減、追いかける事も飽きてきたと溜息を吐くメリー
だがこのまま放置するのも後々に面倒になるとふわり宙に浮く
眼下に広がる黒の中にはメリーゴーランドの光が一つ
見えたかと思えば、その光が周り一帯に広がり始めていた
突然の明るさにメリーは眼を細め、そして次に見えたのは
まるで遊園地の様な景色だった
一体何なのだろうかと、メリーはそこへ降りてみる事に
様々な遊具が動く賑やかな場所
だが乗っている人影はどのそれにも無く
メリーは周りを見回しながらもメリーゴーランドへと歩き始める
暫く歩いていると、途中あった長椅子に知った人物を見つける
「……なんでここに居るの?」
メリーの声にハッと顔を上げたのは少年
どうやら驚いている様で、何の言葉も返してはこない少年へ
深々溜息を吐くと、メリーはその傍らへと腰を降ろしていた
「まぁ、君達は双子だし。夢を共有するのも珍しい事じゃないけど」
「……あいつ、どうなったんだ?」
愚痴る様な言葉も途中、少年は妹の所在を聞いてくる
自身の身の安全を全く顧みようとしない少年にメリーは更に溜息を吐くばかりだ
「……僕を信じろとまでは言わないけど、少し位待ってられなかった?」
「だって ――!」
じっとなどしていられなかったのだと相手
涙すら滲ませてしまった相手と暫く対峙していたメリーだったが直ぐに溜息を一つ
「……ヒトって、どうしてこうも脆いんだろうね」
守るべきものと、守られるべきもの
そんなものばかりを自分から抱え込もうとする
それは結局、自ら枷をはめているに他ならないというのに
それなのにどうして、ヒトは
「……大事、だから」
まるでメリーの思考を読んだかのような答え
どういう事かと少年の方を見やれば
「……ヒトは、いっぱいの大事があるんだ。だから、ソレを守りたいって思う」

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