《MUMEI》

「ゎ、私の身近!?」
 朔夜が学校に居る人物で知っているのは咲耶だけのはずだ。いったい、誰を頼っているのだろうか。
「そう、アンタの担任教師」
「氷室先生が、朔夜のコネの1人!?」
「あぁ。瑠鬼(ルキ)はアンタのこと探すために教師になったんだ」
「えぇ!?」
 咲耶は瑠鬼に追われていると知って、怯えてた。彼も茨木童子同様、酒呑童子の復活を企んでいるのだろうか。そう思うと身体が震えだして、止まらない。
「安心しろ、瑠鬼は悪鬼じゃない。“鬼頭(キトウ)”に仕えているから」
「鬼頭って?」
「鬼の長だ。鬼を仕切るのが鬼頭、悪鬼を仕切るのが酒呑童子ってところだな」
「ふぅん…」
 咲耶は瑠鬼が悪鬼ではないことを知り、安堵した。
(もしかしたら、朔夜や瑠鬼以外にも味方がいるかも?)
 そう思うと悪鬼に狙われているという恐怖心が薄くなっていく。
「仲間が増えるといいね」
 〜〜〜〜〜♪♪♪
 予鈴が昼休みの終わりを告げる。
「早く教室に戻らないと!」
 咲耶は大急ぎで階段を下って行った。
『妖怪め…。今に討伐してやる』
 咲耶と朔夜の会話を1人の男子が陰に隠れながら聴いていた。
 彼は同年代の男子の平均身長より背が低く華奢で、黒くて長い髪を瑠鬼のように結い上げている。
 男子は懐から小刀を取り出し、物音を立てぬよう、ひっそりと朔夜に接近する。
 朔夜は何かの気配を感じて振り向いた。
 ―――スッ
 しかし、遅かった。
「動くな、動けば貴様の命は無いぞ?」
 男子は朔夜の背後から彼の首筋に小刀を突きつけた。

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