《MUMEI》

 電車の乗り方もいまいち分かっていないお兄ちゃんを案内するのはなかなか疲れる。でもここが最後。
 人通りの少ない裏通りの細い道にぽつんと一軒。私の行きつけのカフェ。
「……まだら……はと?」
「ふっふっふー」
 にやにや笑う。やっぱり読んじゃうよね、分かんないよね。
「いかるが、って言うんだよ」
 カランっと音を鳴らしてドアノブを回した。
「いらっしゃいませ」
「斑鳩さんっ」
 斑鳩カフェの店長さん、斑鳩さん。斑鳩さんは長身ですらっとしてかっこよくて。実は私、片想い中なのです。
 このカフェ自体がひっそりした所にあるからか、こーんなにイケメンなのに、すーっごく紅茶おいしいのに、お客さんは少ない。ライバルが少ないってことだったり。

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