《MUMEI》

「久世です」

 4回、リズムよくノックして言う。確かノックの回数はこれでよかったはずだ。ヤマトの平然とした「入れ」の3文字が聞こえた。

「やっ……ヤマト?」
「何だ」

 ーー言いたいことが、全てどこかに飛んでしまった。またドギマギとしてしまう。

「――何もないなら戻れ」
「えっ…あ……」

 嫌だ。でも言いたいことは未だ思い出せずにいる。このままじゃこの部屋から出なくてはならない。何のために入ったのか意味がなくなってしまう。

「ちょっと待ってくれないか?話がしたいんだ」
「だから、待っているだろう。いつまで待たせる気なんだ」

 ああ、イラついてる。早く、早くしなきゃ。何か言わないと…!

「好きだっヤマト!!」

 勢いまかせに声を張り上げて言う。

「――っ!!」

 慌てて口を両手で塞いだ。今のオレは相当頬を朱く染めているだろう。これは大失敗だ!
 そっとヤマトを見ると、彼は表情を一切変えていなかったように見えて、無言。――ヤマト?
 ヤマトは今の告白をどう受け止めたのだろう。

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