《MUMEI》

「本気……か」

 心なしか、ヤマトが笑った気がした。
 ヤマトの空いている左手があごに触れた。くいっとあごを持ちあげられた。

「――ふっ……んぅ……!」

 突然、口がふさがった。……ヤマトのそれで。
 人なんてただの道具としか見ていないやつだと思っていたのに。人よりキスがうまかった。

「はっ……ぁ……」

 このままだとヤマトのペースに持っていかれる。そう思って突き放した。
 息の荒いオレに対し、ヤマトは涼しい顔をしていた。

「お前にとっての好き、という感情はこの程度か」

 そう言って踵をかえす。このままだとやっぱり二の舞になってしまう。伝わらない。でも、今のヤマトの背は少し切なそうに見えた。ヤマトをここでちゃんと捕まえないと、一生オレは、この人と分かりあえないだろう。
 オレはその背中に向かって言った。

「違う!!」

 数メートルの距離。オレは一瞬でも早くヤマトに近づきたかった。

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