《MUMEI》

「“処女”だったりしますか?」
(バレてるーーーーーっ!!!)
 叶人はカナの作品を読んだだけで彼女の秘密を見破ってしまった。
 カナの秘密―それは官能小説家にして、実はまだ1度も交わったことのない、処女だということ。大抵の濡れ場は、胸や敏感な場所を弄りながら、自慰をしながら書いている。
 叶人はカナの小説を1回読んだだけで、その秘密を見破ったのだ。
「…はい…」
「経験が無いからリアリティが上がらないのかもしれないですね…。それでもこんなに書けるのはすごいと思いますよ?」
「そうですか…?」
 やはり、1度体験しなければ、リアリティは上がらないのだろうか。そうすることで上がるというのなら、身をもって体験するしかない。
(そうとなれば、誰にお願いすればいいの?)
 大事な初体験。無理矢理ヤられて痛みを残すだけの行為にはしたくない。好きな人に、やさしく、甘く蕩けるような、快楽で満たされたいのだ。
「先生、どうされましたか?顔、紅くなってますが、体調が悪いのですか?」
「悪くないです!ごめんなさい」
「それとも…僕に惚れましたか」
「へっ!?」
「冗談ですよ」
(今は打ち合わせ中なんだから、しっかりしなきゃ!)
 叶人に秘密がバレたせいで打ち合わせから大きくそれてしまった。
「話、戻しますね。
先生は官能小説を書きたい。けれど、なかなかリアリティを上げられないんですよね?」
「そうなんです。どうすればいいですか?」
「ありのままを書いてみては如何ですか?見たもの、感じたもの、されたことやしたことを」
(実際に体験して、そのときのことを書くのね)
 しかし、それは言うは易し行うは難し。容易ではない。カナには彼氏や愛する人がいない、未だに恋愛経験がないからだ。
 かといって、初対面の叶人に頼む訳にはいかない。
 宇川に頼むのは以ての外だ。あんなヤツに初体験を、処女を奪われる。そう考えると虫酸が走る。
(どうすればいいの…?)
 やはり、叶人に頼むしかないのだろうか。それができないのなら、援助交際をする、もしくは娼婦に身を落とす、といった知らない人に身体を売ることしかない。
「…と言っても、難しいですよね」
「…」

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