《MUMEI》

(いっそのこと、若月さんに頼んだ方が早いかもしれない。淫乱女だと思われてもいい、それでリアリティが向上させることができるのなら構わない…!)
 初対面の人にそんなことを頼むのは気後れする。しかし、そんなことを思っている場合ではない。官能小説作家として、女の子のプライドを捨てて。
「若月さん!」
「急にどうされましたか?そんなに改まって」
(ここまできたら退けない、戻れない…!)
 カナは覚悟を決めた。
「官能小説家の女子高生と彼女の担当者になった男性の話を書きたいです!」
「つまり、貴女と僕とで物語を紡ぎたい、と?」
 カナは一瞬躊躇したが、コクっと頷いた。
(ドキドキ感半端ない…。恥ずかしすぎて壊れちゃうよぉ…!)
 カナはあまりの恥ずかしさで俯いた。叶人の顔を、眼を、まともに見られない。
「それなら、リアリティを上げるのは簡単ですね。ただし…」
(条件は、何?)
 叶人はカナを獲物を仕留めたかのような眼差しで見詰めはじめる。
 しばらく見詰めた彼はカナをソファーに押し倒した。
「幾ら泣き叫んでも、手加減はしないよ?それぐらいの覚悟はあるよね」
「ぁります…」
「もう1回言ってごらん?」
「覚悟はあります!カナのことメチャクチャにしてもいいから…っ!!!」
(しまった…!)
 カナは口走って自分のことを“カナ”と言ってしまった。
「“カナ”?」
「本名、白兎 カナなんです…」
「カナって呼んでいい?」
「いいですよぅ…!煮るなり、食うなり、好きにしなさいよぅ…!」
 カナは半泣き状態でヤケクソになっていた。
「ちょっと弄りすぎたかな?」
 叶人はハハハと笑っていた。
「若月さん、ヒドい!カナは本気だったのにぃ!」
 カナは頬をプクッと膨らませた。
「ゴメン。そんなに怒らないでよ」
 叶人はそんなカナの頬をチョンチョンとと突いた。
「可愛い子がそんな顔しちゃいけないよ?ブサイクになる」
 カナは叶人にそう言われて、頬に溜めていた息をぶしゅーっと音を立てて吐いた。
「とりあえず、通知が来てから今迄のことを書いておいで」
「わかりました!書いてきます」
 カナは執筆道具であるノートパソコンのある部屋に行った。
「それができたら…身体だけじゃなく心も蕩けちゃうぐらい愉しませてあげるよ…」
叶人は執筆しに行くカナを見て妖しげな笑みを浮かべていた。

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