《MUMEI》

それゆえに身動きが取れなくなってしまう事もあるのだと
少年が語るソレに、だがメリーは矢張り分からないと首を傾げるばかりだ
「お前にだって、一つくらいはあるだろ、(大事)」
「……(大事)ね。解らないよ、そんなもの」
(大事)とは一体何なのか
今まで一度もソレに触れる事のなかったメリーにはどうしても分からない
だからかも、しれない。ヒトいうのが不可解に思えてしまうのは
「……君を見ていれば、いつか解るかもね。その(大事)って言うのが」
「は?」
メリーの呟いたソレに、少年は聞き返して見るが
答えて返すわけでもなく、メリーはまた歩き出した
その後ろを少年は僅かに慌てながら後に続く
「……騒々しい所だね」
乗せる人もなく、唯動き続ける遊具
メリーは徐に脚を止めると、ソコにあったブランコの様な遊具に少年を抱え飛び乗った
「これ、楽しいの?」
巨大ブランコが何個も連なり、それが唯くるくると回る
これのどこが楽しいのか
改めて少年へと問うてみれば
少年はすぐに笑みを浮かべて顔を伏せ、だがすぐに頷いた
「……妹も大好きで、よく連れて行って貰ってた」
「まぁ、確かに子供が好きそうな場所ではあるよね」
僅かに肩を揺らしながらメリーは笑う
暫くその遊具で遊び、そして下へと飛んで降りた
「……随分と、楽しそうだな」
同時に聞こえてきた、聞き馴染の声
メリーはそちらへと向き直ってやりながら
「……何しに、きたの?ロン」
現れた相手・ロンへと横目見ながら返してやれば
メリーの足元を大勢の羊が囲んでいた
「……この子たち、何?」
邪魔なんだけど、と続けてやれば
ロンはその数匹いる羊の中から一匹抱え上げる
「……連れていけ。恐らくは役に立つ」
「どういう風の吹き回し?君が僕なんかに羊を貸すなんて」
雨でも降るのではないかとからかう様に言ってやった
「……唯の気紛れだ」
気にするなと踵を返しながら
ロンはメリーの頭の上でどうしたのか手を弾ませた
子供扱いするなと手を払いのけてやれば
ロンは口元に薄く笑みを浮かべ身を翻しその場を後に
その背を見送ると、メリーも歩き出す
「……アイツの匂い、解る?」
脚元ついて歩く羊たちへと何となく尋ねてみるメリー
羊はそれに返すように脚を早め、メリーの先を歩き出した
そして、入っていったのはとあるテントの中
どうやらサーカスのテントの様なそこへと入ってみれば
様々な人形が溢れ返る場所だった
可愛らしいぬいぐるみから、ヒトを忠実に摸したマネキン
子供が遊ぶフィギュアなど、その種類は様々で
一体ここは何なのか
怪訝な表情を浮かべるメリーが周りを見回した
「ようこそ。楽しい、夢の世界へ」
突然の声が聞こえ、目の前に人形その声の主らしいクマの人形が現れる
クマのぬいぐるみ
だがソコに可愛らしさなど欠片もなく
その顔は酷く醜悪なソレをしていた
「君は夢魔だね。こんな所に何しにきたの?」
おどける様な口調
踊りながらゆるりメリーへの方へと歩み寄ってくる
「ナイトメアの処には、行かせないよ」
可愛らしい声色から一遍、俄かに低くなり
ソコにある全ての人形たちが一斉にメリー達へと襲い掛かってきた
助ケテ、苦シイ
それらを何とか避けながら、頭の中へと直接聞こえてきた声
メリーはハッとし、見たその視線の先
人形の中に、妹の姿が混じっている事に気付く
その全身には操り人形を模しているのか、無数の糸が複雑に絡んでいる
少年が怒鳴る様に妹の名を呼んでみれば
その眼がゆるり開いて行く
だが妹からの反応は無く、その眼は何を映す事もしていない
「その子なら、もう生きてないよ」
少年が妹の傍へと駆け寄ろうとすれば
嘲りを含んだ声が向けられる
ああ。矢張りそうか
その言葉に、メリーは納得がいった
だが
「ソレ、どういう事だよ?」
少年の方はそうではなかった様で
怪訝な表情を顕わに、その人形へと詰め寄っていく
「どういうって、言葉通りの意味だよ。その子はもう、生きてない」
改めて言いきられ、少年の顔から血の気が一気に引いて行った
「……嘘、だろ。だって俺、起きてたあいつと話した。今日だって――」
「それ、本当に今日だった?君の勘違いなんじゃないの?」

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