《MUMEI》

以前より播磨の内にあった疑問が更に深くなる
「「あと、何人?何人食べれば、アナタの(夜)は広がるの?」
何もかもが全く解らない。、唯一つ解る事と言えば
あれは多分、此処に在ってはいけない存在だという事だけだ
「……ほんまに、難儀な子ぉやな!!」
言いたい事があれば言えばいいものを
何故、それが出来なくなってしまったのだろう
あの時、日和が遊郭に売られると聞かされたあの日
日和の手を取って逃げてやればよかったのだろうか
考えてみても今更な事を考えてしまいながら、播磨は(夜)をかき分ける様にして日和の元へ
手を掴み、引き寄せてやる
「……離して」
「断る」
「離して……。離しなさい、播磨!!」
声を荒げ始める日和
だが播磨はその声を聞き届ける事は無く
日和の手を掴んでいるソレを更に強めてやった
「……離して、離してぇ……」
日和が幼子の様に嫌々を始めれば
其処からまた黒いものがドロリ溢れ出す
「姫さん、俺から逃げんな!!」
ソレにまた塗れようとする日和につい怒鳴り散らせば
日和は播磨の手を振り払い
「私を、捨てたくせに!」
睨む様な視線を播磨へと向けていた
「私は、播磨を嫌いになりたかった。憎みたかった。そうでもしなければ、待つ事に耐えられなかった!!」
「姫さん……」
「守ってくれるって言った。最初に出会ったあの時に!!」
(あの日)
それはまだ播磨と日和が出会って間もない頃の事だった

人見知りが激しかった日和は播磨にも中々懐かず
日和の世話を任された播磨はどうしたものかと頭を悩ませていた
困り果てた播磨は部屋の襖越しに日和へと言って聞かせたのだ
どんな事があっても守ってやる、と
その言葉で漸く日和が僅かだが笑ってくれた事をよく覚えている
その時の約束の事を日和は言っているのだ
「……私は、遊郭になんて入りたくはなかった。ずっと、播磨の傍に居たかった!!」
今になって聞く日和の本音
一度吐き出し始めたそれは止まる気配を見せず
日和の口から次々に溢れ出した
「……迎えに、来てくれるって信じてた。ずっと、ずっと待ってたのに!!」
感情の高ぶりが最高潮に達した、その時
「落ち着かれて下さい。日和様」
常に日和の傍に使える、あの人物が現れた
音もなく、気配もなく日和の傍らへ
宥める様に日和の肩を抱き締めてやりながら
「今日は、取り敢えず帰りましょう。あまり外気に触れるとお身体に障ります」
「……解りました」
その言葉に日和は素直に頷き踵を返す
立ち去り際、播磨へと一瞥を向け
その唇が言の葉を紡いだように見えたのだが、播磨には何かは解らなかった
そのまま去っていく去っていく日和の後ろを見
深く溜息を吐くと播磨もまた踵を返し、取り敢えず帰路へと着いたのだった……

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