《MUMEI》

葵はそのまま屋上に向かった。

ベンチに腰を掛け、空を見た。

どれくらいたったのだろうか。

下の方から声がする。

「もう、下校時刻かぁ…。」

葵はベンチから離れ、柵の方へと向かった。

風が葵を吹き抜けた。

「気持ちいい…。」

葵は自分でも分からず、柵に足を掛け、柵の上に座った。

ふと、下を見ると、駿とその彼女が楽しそうに歩いていた。

「ここから飛び降りたら、駿くんの記憶に少しでも多く残るかな?」

葵は飛び降りようと身を乗り出した。

だが、すぐに駿の顔が頭に浮かび上がった。

どうしていいか分からない。

だれにこの張り裂けそうな気持ちをぶつけたらいいの?

自然と涙が葵の頬を蔦る―…。


ふと、下を見ると、黙ってこちらを見ている人がいる。

「駿くん…。」

その瞬間、強い風が葵の体を奪った。

バランスを崩し、落ちそうになるが、あと一歩のところで踏ん張った。

「もう、かえろうかな。」
柵を跨ぎ、もう一度下を見る。

駿の姿がない。

彼女の姿しかない―…。

ガラッ

息を切らし入ってきた男の子―…。

「駿くん!?」

「バカやろー!」

葵はビックリした。

「え?」

「落ちたら、どうするだよ!」

凄い剣幕でこちらを見つめる駿―…。

「少し、風に当たっていただけだよ?」

「はぁー…。」

駿は力が抜けたようにベンチに座った。

「彼女、いいの?一人だよ?」

「あぁ、待ってもらってるから、すぐいく。」

汗だくの駿―…。

「これ使って?」

葵はタオルを差し出した。
「サンキュー。」

また、二人の間に神妙な空気が流れた。

「えー…と、もう、私帰るね。」

この場の雰囲気に着いていけなくなった葵は走った。
「おい!」

駿が葵を呼び止めた。

「何かいいたいなら、言えよ?いつでも、聞くから!!」

「うん…。」

そのまま葵は屋上を後にした―…。

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