《MUMEI》

ソレまで薄い笑みを浮かべていた六星の表情から俄にソレが消えて失せ
七星の着物の袷を突然に掴み上げた
「人とともに安穏と暮らしてお前に何が解る。お前などに――」
掴む手が強まり、息苦しさに七星がもがき始めれば
「おやめなさい。六星」
お天道様の声が柔らかく制止する
「その子も、私の大事な子。傷付けてはいけませんよ」
いまだ冷たい声色で、お天道様は七星へと近く寄る
声の冷たさとは裏腹に、表情はひどく優しく
七穂の頬へと、手を触れさせた
「あなたは、この人間に一体何を求めているのです?」
「何も」
お天道様の手を振り払うかの様に七星は首を振る
何も望む事はないのだと改めて言う七星へ
お天道様は怪訝な表情を顕わにしていた
「ならば、あなたは何故人間と共に要るのです?私の元から逃げ出してまで」
「主は、助けてくれたの。てんとう虫だった私を」
七星の腕の中、新井呼吸を繰り返す片岡を見やりながら
片岡と出会った頃を、七星は思い出した
それはさかのぼって二十年前、まだ七星がてんとう虫としてヒトの型をなす前の頃
蜘蛛の巣にかかってしまった七星を片岡が助けた時のことを
「私は、主に助けられた。だから――!」
ああ、そういう事か
意識薄の中、七星の話を聞き片岡はようやく納得がいった
何故、七星が自分の元へと来たかという事を
「……只のガキの気まぐれだろ。何、やってんだか……」
「私は主を守りたかった。あの時からずっと」
だから、片岡のもとへと落ちてきたのだ
そうする事で、同族から裏切り者だと罵られたとしても
片岡を、守りたいと
「……何故です?七星。あなたは私の唯一の七つ星なのに!!」
途端にお天道様の表情からソレまでの穏やかさが消えて失せる
明らかに変わったその様に七星は怯え
片岡を抱く腕に力を込めた
「違う!私は、私。皆、皆、自分は自分だけなの!」
要らない者など一人としていないのだと怒鳴る声に
「……馬鹿な子。どうして、この子が七つ星なの?」
お天道様の表情は更に冷たいソレに変わり
手にある刀をまた握り返す
「……さようなら。もう、要らないわ」
振り上げられ、そして降ろされる刀
七星は片岡を庇い、その来るだろう痛みに耐えるため目を固く閉じる
だがその刀は七星を斬り付ける事はなく、七星が恐々様子を窺ってみれば
片岡の脚がソレを蹴って弾いていた
「主……!」
驚く七星が片岡のほうを見やれば
片岡は呼吸も荒い中、口元には薄く笑みを浮かべて見せる
「……随分と好き勝手な事ばっかりしてくれるな」
七星を自身の後ろへと隠すように立ち位置を変え
お天道様を正面から見やると、片岡は徐に脇差を差し向けた
「……何の、つもり?人間」
弾き落された刀をお天道様は拾い上げながら片岡の法を見やる
唯々、嫌悪と憎悪に満ちた視線
人はそれ程までに傲慢だっただろうか
陽の元で生きる価値もないと言われてしまう程に
「……その通りでしょう。あなた方に、慈悲など必要ないのです」
満面の笑みをお天道様は浮かべると、また七星へと向いて直る
「……私の、可愛い子。貴方の星を、私に寄越しなさい」
「嫌」
お天道様のソレを七星ははっきりと拒絶する
表情を明らかに強張らせ、お天道様は七星へと手を伸ばし
「……貴方は天道虫。天道虫は、私の糧となるの」
七星の着物を徐に剥いでいた
その顕わになった背に在る、七つの星の痣
ソレを見、お天道様は悦に入った様な表情を浮かべて見せた
「……これが、私が求めていた者。これさえあれば私は(本物)になれる
唇を舌で舐め、お天道様は薄く口を開き始める
何をするつもりだろうか
その様を食い入るように眺めているしか出来ない七星
直後、肉を食いちぎる様な湿った音が耳元でなった
「あ゛――」
感じる痛みに、七星がお天道様を見やれば
その肩に噛みつかれた後だった
「七星!」
片岡の怒鳴るような声と同時、七星の身体が崩れ落ちる
訳が分からず、七星が何故と問うことをしてみれば
「……私は、七つ星が欲しいの。だから貴方を喰う事にしただけ」
「……私を、食べるの?」
「そう。光栄に思いなさい。私の一部にもうすぐなれるのだから」
誰も、そんな事は望んでいない

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