《MUMEI》
闇市にて
大陸最大の規模を誇る巨大乾燥地帯、ラナ砂漠。
45度を超える平均気温。枯れ草の一本も生えぬ砂の波が延々と続く乾ききった世界。

常人ならばまず立ち入ることはない過酷な環境ながら、実はその中心近くには、小さなオアシスが存在する。

そこは、一般人が近寄らないのをいい事に、古くから年中怪しげな連中が、怪しげな物品を取引する闇市と化していた‥‥


「はぁぁっ!?」

炎天下の市場が一瞬凍りつくほどの奇声を上げ、一人の少女が眼前の店主を睨みつけた。

ややサイズの余る砂よけのマントをまとい、シンプルながら動きやすそうな短めのパンツ。頑丈そうな作りの革製ブーツを履き、その腰には鞄代わりに小さなホルダーが下がっている。
そばかすの散らばる顔立ちにはまだ幼さが残り、曇りのない灰色の瞳が強い光を放っていた。

すねに傷のある者ばかりが集まるこの場において、明らかに少女は浮いた存在だった。しかし本人は全く気にならないのか、鋭い視線で自分よりも遥かに大きな武器屋の男店主を見上げている。


「売れないってどういうこと!?昨日と話が違うじゃない!」

鬼のような剣幕を向けられた店主は、びりびりと痛む耳を抑えつつ「仕方ないだろ」と毒づく。

「昨日の夜中に仕入れの荷車が盗賊に襲われたんだ。命があっただけでも儲けもんさ。勘弁してくれよ」

強面のヒゲ面に苦笑を浮かべ、お手上げのポーズをとる態度に、あまり反省の意思は感じられない。

それが少女の怒りを一層煽っていた。

「あんたねぇ!仮にも商人なら客との約束くらい命張っても守りなさいよ!大体何で闇商人のくせに用心棒つけない訳!?こっちは身一つで砂漠越えてここまで来たんだから!!」

怒涛の勢いでまくしたてるも、店主の男は困ったように肩をすくめてため息を漏らす。

「悪いが命あっての商売なんでね。用心棒は高いし。それに、嬢ちゃん見たとこまだ十代だろう?わざわざこんな闇市まで来て剣なんて物騒なもの、何で欲しがるんだ」

「別に普通の剣なんかに興味はないわ。ただ、街に出稼ぎに来てたどっかのヒゲ店主が、今度面白い武器入荷するって誇らしげに言ってたもんだから」

ありったけの嫌味をぶつけてやると、ヒゲ店主は「悪かったよ‥‥」と小さな声で詫びた。

闇市までの道のりを用心棒の一人も付けずに渡る不用心さは商人としてかなり問題だが、その落ち込んだ様子を反省と見て、少女は「まぁ、もういいけど」と付け加えてやる。

「あんただって商品取られちゃって災難だったろうし、次からはちゃんとケチらずに用心棒つけて行くことね」

自分なりの励ましを告げて、少女は次の目的地に向かおうと店主に背を向けた。


「ああちょっと待った!」

「え?」

「ほら!これ」


振り向くと、カウンター越しにラナ砂漠の地図が差し出されていた。よく見ると闇市から少し離れた箇所に、赤いインクでポイントが示されている。


「この赤い点が俺が昨日襲われた場所だ。おそらく奴等の縄張りがこの辺りなんだろう。嬢ちゃんがどうしてもってゆーんなら、腕自慢でも雇って取り戻しな。人数自体はそう多くはなかったからな」

「いいの‥‥?」

「俺ぁ争いは嫌いなんだよ。勝手に取り戻したんならそれはもう嬢ちゃんのもんだ」

「‥‥ありがとう」

思ってもみなかった情報提供に、ぽかんと開いた口から自然と感謝の言葉が零れる。

「なぁに。また来てくれよ。今度はちゃんと用心棒つけて仕入れすっからさ」

くしゃっと笑った顔は、意外にもかわいらしく思えた。

いい加減な面もあるが、悪い奴ではないのかもしれない。

「あっ!せっかくだから名前教えてくれよ!次来たとき安くしとくぜ」

どこまでも気さくな店主に、少女は自分でも気づかぬ内に微笑みを浮かべて‥‥

「ラミア。ラミア・ガーヴェイル」

「ラミア、か。いい名前だ」

「ふふっ。そうでしょ?」

いたずらっぽく言うと、地図を片手にラミアは再び砂漠に向けて歩き出す。

「今度こそ‥探し出してみせる。絶対に‥」

無意識の呟きは市場の活気にかき消され、少女の姿もまたその中へと消えていった‥。

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