《MUMEI》
砂塵の彼方へ
髭面の闇商人と別れた翌日。
ラミアは市場中を探し回って見つけた傭兵達を連れ、盗賊団の根城を目指して灼熱の砂漠を歩いていた。

地図の紙面に記された赤点のすぐ横に、古代人の遺したとされる巨大遺跡がある。盗賊団はおそらくそこを拠点としていると見て間違いない。

彼等が本格的に行動を開始する夜中までに奇襲をかける作戦だった。


が、出発時はまだ夜明け前だったにもかかわらず、太陽が天高く昇った今尚、目的地は見えない。



地図の縮尺からして、予定ではとっくに到着している筈なのだが、あの店主の仕事だ。この程度の誤差は覚悟しておくべきだったのかもしれない。


「はぁ‥‥」

心身に溜まった疲労を、深々と吐き出す。
考えてみれば昨日からほとんど動きっぱなしで休んでいない。


「おいおーい。まだ着かねえのー?」

「ため息吐きたいのはこっちなんですけどー」


背後からぶーぶー文句を飛ばしてくる男達の存在も、ラミアの足取りを更に重くさせていた。


「ったくどいつもこいつも‥‥」


眉間に深々と皺を刻みながら、腹の底から煮えたぎる苛立ちを吐き捨てる。


地図を入手した後、まずは戦力を探さねばと市場中を足で回った。ここは裏社会を渡り歩く荒くれ者の溜まり場だ。報酬さえ払えばどうとでもなると考えていた。

実際、露店街の通りを少し歩けば、屈強そうな傭兵達がゴロゴロいた。

彼等の目的は大方、街の武器屋では決して手に入らない魔法武具だろう。

一般人の武器の所持は、殆どの国の法律で認められている。
しかし魔術で違法に強化された武器、即ち魔法武具だけは例外だ。

ラミアの探しものもまた、その一種と言っていい。

が、こんな非常識な裏社会に於いても、その存在を本気で信じる人間など、皆無に等しかった‥‥。

「魔剣?ママからお伽話でも聞いたのかい?」

「盗賊団倒したら俺と付き合ってくれるかい!?」

「有り金全部くれるってんならやってもいいぜ?」


先日出会った傭兵達との会話を思い起こし、更に眉間の皺が深くなる。

声を掛けた人数は20人近くに上ったが、結局付いて来たのはここに居る5人ぽっちである。

しかもその外見も、顔色の悪いひょろ男だったり、見るからに頭の悪そうな脳筋男ばかりと、ろくな奴がいない。

唯一頼りになりそうなのは、かつて他所の国の騎士団に所属していたセルバという金髪の中年剣士くらいだ。

年を重ねた者の貫禄と、冷静で理知的な態度。依頼を話した時も、ラミアの目的を笑い飛ばしたりはせず、快く承諾してくれた。

今現在も、「暑いー」だの「腹減ったー」だのほざいている脳筋共とは違い、ラミアの隣で欠片ほどの疲れも見せずに歩いている。

一体彼のような人間が何故あんな場所に足を運んだのか、正直不思議に思った。

「ねえ‥どうして闇市なんかに居たの?」

聞くべきではないと分かっていたが、思わず問いかけてしまう。

一瞬言葉を引っ込めようか迷ったが、特に気を悪くした様子もなく彼はすんなりと答えてくれた。

「娘がね、病気なんだ。治療するには、あそこでしか手に入らないものが必要だった。」

「そう‥‥だったの」

なんとなく事情を察したラミアは、それ以上聞くのをやめた。一瞬流れかけた重苦しい空気を払うように、今度はセルバがラミアに明るく尋ねてくる。

「そういえば君はどうして魔剣を探しているんだい?」

「私は‥‥」

口にしようとすれば蘇る、思い出したくない記憶。それらをそっと拳に握りしめ、なんとか平静を装って告げる。

「助けたい人たちがいるの‥‥魔剣がもし本当に存在するなら‥きっと救える筈だから」

半分は自分に言い聞かせる形となった言葉の直後、外野の脳筋の一人が前方を指差し叫んだ。


「見えたぞ!あれだろ!?」


全員の視線が追った先に、予想よりもかなり大きな石造りの神殿がそびえ建つ。

ここに、もしかしたら魔剣があるかもしれない。

そう考えるだけで、心臓の動悸が太鼓のように強く脈打ち、手にじわりと汗が滲む。

高揚とも焦燥ともつかぬ感情に突き動かされ、ラミアは声を張りあげ駆け出す。

「行くよ!みんな!!」

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