《MUMEI》 触れてみれば見え始める何か 見えてきたソレは、少年と妹の家 二人が向かい合い、何かを話している様子が見えた 何を話しているのだろう、と聞き耳を立ててみれば 『……お前なんて、居なきゃよかったのに』 耳を疑うような言の葉を聞いた この冷酷な声があの少年から発せられているものなのだと 状況を理解するのに暫く掛った これは一体どういう事なのだろうか 確かに少年は妹を助けたいと望んでいた筈だった ナイトメアに憑かれていたのも妹で だが今見ている限りでは、どうしてもソレが納得ができなかった 「……見たんだ。夢喰い」 「どういう事か、聞いてもいい?」 ふいに少年の声が聞こえ、メリーは向き直り 状況説明を乞うては見るが少年からの返答はない 怯え、動揺し、困惑していたあの表情はすっかり形を潜め 見た事もない歪な表情を少年は浮かべて見せた 否、これは少年ではない 「……ナイトメア」 実際、ナイトメアに憑かれていたのは妹の方ではなかったのだ 目の前のこの少年こそがその宿主 すっかり騙されていたとメリーは深くため息を吐いた 「……あいつのこと、大好きだったんだけど、同時にたまらなく鬱陶しい時もあったんだ」 「だから、殺した?」 「……殺すつもり、なかったんだ。ちょっと困ればいいなって、思ってただけで」 「認めるんだ。殺した事」 「認めるよ。だって、お前には嘘ついたって無駄だし」 悪びれた様子のない少年 ニヤリ唇を歪ませたかと思えば、段々と笑う声を上げ始める 「色々ありがとな、夢喰い。おかげでいい夢が見れる」 「いい夢?」 これが悪夢でなく何だと言うのだろうか いい夢だと笑ったままの少年を睨みつけながらメリーは心中思う事をする もう全て手遅れかもしれない、だが 「……せめて、君だけでも助けるから」 どうしてかそんなことを考えてしまっていた ヒトなど、どうなろうが知ったことではない 今までならそう言って捨て置いたはずなのだが なぜか、そう出来ずにいた 「お前も随分と丸くなったな」 不意に声が聞こえ、向き直ってみれば 其処に、薄く笑みを浮かべ、メリーへと手を挙げて見せるロンの姿があった また何をしに来たのかとメリーが見やれば 「……殺せ。その子供はもう手遅れだ」 険しい表情のロンが其処に立っていた ロンにしては珍しい事を言うと顔を顰めたメリーだったが それ程までに状況は切迫していると言う事で メリーは少年へと向いて直る 「……そう、だね。この現実は、この子には酷すぎる」 生かしてやった処で、現実に帰ればその罪の呵責に苛まれることになる この小さな身体でその全てを負わなければいけなくなるのだ そうなる位ならいっそ ―― (……駄目!!) 撃鉄を起こす音を僅かに鳴らしながら少年へと近づいていくメリー ソレを突然の声が制止する 脚を止め、メリーが周りを見回してみれば 目の前に一匹の羊が現れた 「……君は?」 少年を庇う様に立つ羊 まだ生まれたてなのだろう小さなソレを メリーが掬う様に抱き上げてやれば (お兄ちゃんを、殺さないで!お兄ちゃんは、何も悪くない!) 懸命に少年を庇おうと訴える 表情などない筈の羊に、メリーは見覚えの在る面影を見た 「……馬鹿だね。あの子は君を殺したんだよ?なのに何で……」 その羊は、妹 メリーへと擦り寄り、嫌々をするように何度も身体を震わせる 「……邪魔だ」 低くつぶやき、少年は羊を鷲掴む メリーから半ば強引に引き剥がすと羊を自身の目線まで持ち上げ 一瞥をくれてやると後方へと放り投げた 「さぁ、どうする?夢喰い。俺を殺せばこの子供も死ぬ事になるが」 声が俄に少年のそれから変わる 目の前の存在は紛れもなくナイトメア メリーは派手に舌を打つと銃口を向けていた 「……なんで、初めて会った時、妹を助けて欲しいなんて言ったの?」 そのまま少年と対峙し、メリーは少年と初めて会った時のことを思い出す 当てやれば瞬間、少年の頬を涙が伝った ソレは、ナイトメアの中に残る少年の(心)が流した涙 前へ |次へ |
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