《MUMEI》 魔に魅入られし者「何よ‥これ‥‥」 眼前に広がる光景に、ラミアは愕然となった。 「うっ!」 衝動的にこみ上げて来た胃液を、無理やり飲み込む。 「こいつら‥‥盗賊団の連中か?」 最早人の形を保っていない骸たちをまじまじと見つめ、脳筋の一人が呟く。 確かに、肉片にへばりついた衣服には、盗賊団を象徴するお揃いの紋章が刻まれていた。 「仲間割れ‥?」 「違う」 「!」 唐突に向けられた低い声に、ラミアは驚き顔を上げる。 声の主は、市場を出てから一度も言葉を発しなかった顔色の悪い細身の青年だった。 いつの間にやら隣で一緒に血だまりを眺めていた彼は、常人ならば直視に堪えるこの有様を目にしても眉一つ動かさない。 切れ長の瞳は深い緑色の光を宿し、生気の無い青白い肌は死人を連想させた。 「違うって‥どういうこと?」 ラミアの疑問に青年の口が開きかけた‥その時。 「ぎゃあっ!!」 ザッ!という短い音が空を裂き、続いてバシャッと何かが血の池に倒れこむ。 「何!?」 慌ててランプの光を向けるが、そこにあったのは無惨にも腹から真っ二つに切断され、肉塊と化した脳筋男の姿だった。 「ぐぁっ!」 「がっ!?」 状況を把握する間もなく、続けて上がる二つの悲鳴。気付いた時には肉塊が同じ数だけ増えていた。 それなのに、どれだけ部屋を照らしても、自分たちの他に人の姿は見つからない。 「何が起きてんのよ‥‥」 それまで魔剣欲しさに浮かされていた頭が、急激に恐怖で埋めつくされていく。 ラミアとて護身術くらいは体得しているものの、曲がりなりにもプロの傭兵を一瞬で3人も葬る相手に太刀打ちできる道理はない。 いや、それ以前に襲撃者は人間なのか? 思考が真っ白になり、その場に佇むラミアの肩をセルバが強く叩く。 「しっかりするんだ!逃げるぞ!」 「あ‥」 逞しい手に支えられ、震える足を無理矢理動かす。ほんの5メートル程度先の部屋の出口が、酷く遠くに感じられる。 速く。もっと速く。 その思いとは裏腹に足はもつれ、床に転がる死体の一つに蹴躓いてしまう。 「うぁ‥」 おおよそ悲鳴ですらない短い叫びと共に、ぐらりとつんのめる体。同時に耳もとで、ヒュッと空を切る音した。 前へ |次へ |
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