《MUMEI》
荊の魔剣士
殺される!

そう思った。

ザシュッ!と、肉を斬る音が響く。

かまいたちのような不可視の凶刃。それは狂い無くラミアを捉えていた‥筈だった。

「ぐぁぁっ!!」

「セルバさん!」

ラミアの目の前で、金髪の剣士が絶叫しながら膝を着く。その左腕は二の腕からすっぱりと斬り落とされ、噴水のように血飛沫を上げていた。

「そんな‥私を‥‥庇ったの?」

「はは‥つい、ね。娘と同じくらいの女の子だったからかな?」

額に脂汗を浮かせながら、引きつった笑顔でそんな事を言ってくる。傷は深く、即座に手当てしなければ命に関わるだろう。戦闘は、絶対に不可能だ。

逃げられない。本能がそれを悟った。

「ごめん‥みんな‥‥」

ゆっくりと閉じたラミアの瞼の裏で、かつての記憶が鮮明に蘇る。
焼け野原の故郷。寝たきりの母。精神を病みながら、面倒を見る父。絶望の中で何処かへと消えてしまった兄。
故郷を捨て、名前を捨て、遠い国へと逃げた友人達。

ラミアが、魔剣を求める理由。助けたかった‥大切な人々。

頬を流れる涙の理由は悔しさか、恐怖か。それを考える時間すら与えられず、姿なき死神は再びラミアを狙う。

二度は無い。今度こそ、終わりだ。

ガキィン!

肉を断つ衝撃の代わりに聞こえたのは、金属がぶつかり合う音色。

またしても、その瞬間は訪れなかった。

「偽物にしては‥中々の出来栄えじゃないか」

一行の誰一人として防ぐこともままならなかった死の刃を止めたのは、あの顔色の悪い青年だった。

その右手には、抜き身の長剣が握られている。

「貴方‥‥生きてたの‥」

今まで気配を殺していたのか、とっくに死んだと思っていた。

青年はラミアを一瞥するがすぐに背を向け、部屋の出口付近を見据える。

ラミアの目には何も映らないが、あの青年には何か見えているのだろうか。

それから間髪入れずに3回、青年は見えない斬撃を事もなげに弾いてみせる。

すると、敵もどうやら青年に対して警戒心を抱いたらしく、迂闊に攻撃を仕掛けて来なくなった。

その隙を見計らい、青年は横目でラミアを見やってくる。

「よく見ておくといい」

そう告げるや、青年は長剣を正面に構え、その刀身を左手でなぞる。刃先に触れた指の皮がぷつりと裂かれ、じわりと鮮血が柄まで滴り落ちる。

そして、変化は起こった。

血に濡れた鋼の刃に緑色の呪文が浮かび上がる。
やがて、そこから柄を伝って青年の体にも呪文が植物の蔦のように絡みついてゆき、光が爆散。

眩んだ視界が戻った頃には、青年の姿は大きく変貌を遂げていた。

長く伸びた深緑の髪。淡い緑色に発色する皮膚。尖った耳。爪も鋭く伸び、口からは禍々しい牙が覗く。
人間とはかけ離れたおぞましい異形は、例えるならば魔人という表現が相応しかった。

「これが、お前の探す力の‥正体だ」

無機質に放たれた言葉が、銅鐘のようにラミアの中で反響する。

青年は、魔剣士だった。

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