《MUMEI》
伝説の真実
「本当に‥あったんだ‥」

敵がまだ潜んでいるという事も忘れ、ラミアは惚けた表情で青年に魅入っていた。

よく見ると、色素が抜け落ちた肌には、植物の蔦のような文様が全身に這い回り、魔力の光が明滅している。完全に人間を超越したその様相には、ある種の神々しささえ覚えた。

傍目には恐ろしい怪物にしか見えないであろう彼が、ラミアには不思議と美しいと感じられた。

「ギッ!」

不意に、何処かから羽虫のような鳴き声が聞こえた気がした。
瞬間、身を翻した青年の右手がラミアの視界からかき消える。

「ギシャッ!?」

次にラミアの目に飛び込んできたのは、出口のすぐ右横の壁に、魔剣で縫い止められた巨大な爬虫類のような生物の姿だった。

「うっ‥‥」

青年が魔剣を投擲したのだと理解したのは、不気味に蠢く『それ』をしばらく見つめた後だった。

「これが‥私たちを襲った敵‥?」

ようやっと実体を表した襲撃者は、生まれてこの方見たことのない、気持ちの悪い化物だった。

蛇のような鱗で覆われた肉体は平たく、四肢はボコボコと歪な筋肉で変形している。トカゲに似た頭は目も耳もついておらず、ノコギリ状の牙が生え揃った口だけが大きく裂けていた。

生理的嫌悪感を煽る外見に、ラミアは思わず目を背ける。

その背中を青年がそっと押し、「目を逸らすな」と囁く。

「だって‥」

「あれもまた、お前の求める力の一端だ」

「嘘‥」

何を言われているのかよく分からなかった。

おそるおそる、再度爬虫類の化物に目をやると、その右手には小さな鋼の剣が握られていた。

しかし、その柄は植物の根のごとくその右手に溶け込み、完全に一体化している。

ハッと青年の右腕へ視線を動かすと、化物のそれと同様に、緑色の文様が深く根ざしている。

離れた場所にある魔剣の柄にも同じものが脈打ち、連動しているようだ。

「まさか‥」

「そうだ。この化物は元はただの人間だ」

「っ‥!」

驚愕と絶望。二つの感情が奔流となって胸中へ渦巻き、ラミアはその場に崩れ落ちる。

「魔剣の‥せいなの‥?」

問いかける声が震える。認めたくない。こんなもの、自分が求めていた力なんかじゃない。

「こいつのは偽物だがな。本物と同じ原理で起動している」

青年の言葉はあくまで冷静で、冷徹に真実を突きつけてくる。

「いやっ!」

頭を抱えて、拒絶を口にした刹那、視界がぐわんとブレる。

青年がラミアを抱えて大きく飛び退いたのだ。

先程まで2人が居た場所には、三日月型のクレーターが穿たれていた。

無論、あの爬虫類の仕業だ。

「まだ息があるの!?」

背から腹にかけて貫通した魔剣は、未だしっかりと突き刺さったままである。人間ならば、即死していてもおかしくない致命傷だ。

にもかかわらず、敵は短い手足をばたばたと振り回し、息もつかせぬ攻撃を何発も放ってくる。

「ああなったら‥簡単には死ねない」

耳もとで呟く青年の表情に、少しだけ哀しみが混じったように見えたのは気のせいだろうか。

「どうするの‥?」

「どうもしない。せめて、楽に逝かせてやるだけだ」

斬撃を避けつつ、青年はラミアを降ろし、空になった右手を化物に向けて翳す。

すると、突き刺さった魔剣から、棘のついた荊がするすると伸び始め、瞬く間に敵を拘束。続いて太く鋭い木の根が地面を突き抜け、抵抗できなくなったその頭を串刺した。

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