《MUMEI》

「では先ず、サヤは何処に居る?MHO内で俺と同じオリガルト前の平原でログアウトし…ゲホ…した筈だ。」

俺の目で見える範囲にそれらしい人影や気配は無さそうだ。

「自分の事より妹の事。流石は長男と言うべきか。尊敬するよ、純粋にね。」

言いながら、矢吹は足を組み変えた。

何というか、こいつは何をどうやって褒め称えても馬鹿にしている様にしか感じさせない天才だと思った。


「サヤは何処だ。」

矢吹のペースに呑まれては聞き出さなければならないことも聞き逃しかねない。あわよくば、MHOについても二、三聞きたい事があるのだ。

思いたくはないが、この奇跡の様な矢吹との面会に時間制限があるとしたら、急がなければならない。

「そう急ぐな。沙弥嬢は私の会社、つまりall select本社に居るよ。五十七階の、MHOが一つだけ置いてある部屋の中さ。因みに其処には私の妹が見張っている。」

「…そうか。じゃあ次の質問だ。此処は何処だ?部屋だけじゃなく、建物も答えてくれると嬉しいんだが。」

サヤが取り敢えず安全だということを矢吹の口から聞くと、すぐ様次の質問に差し掛かる。

時間が気になるな。

「此処はall select本社の地下から繋がっている隠し部屋。何も知らない人間はまず見つける事すら出来ないだろう。私の大切な現在の自室だよ。」


こんな湿っぽい場所を自室にする程、現実世界の矢吹は切羽詰まってるって事で良いのか?

まぁ、こんなことをしでかしているからこの位は当然か。なんだか、感覚が麻痺してくる。

「そうか。」


もう一つ、聞きたいことがあった。

「んで、なんで追いやられている感満載のお前が、危険を犯してまで俺ら兄妹を現実世界に呼び出した?自分でわざわざ作ったルールを破ってもいるし、気になってな。」

矢吹の頬の表情筋が、僅かに動いたのが窺えた。

今の俺の言葉の何処に反応したのかまでは判断しかねるが、これで答えてくれれば俺がこれからMHOをやるポテンシャルが変わってくる。

「…まずは、追いやられている感満載、という言葉についての返答だ。僕は追いやられてなどいない。」


まさか、こいつ。

追いやられている、という言葉にムカついたのか?

いや、どうも本当にそうらしい。

一人称が私から僕に変わっている。案外、こいつは相当扱い易い奴なのかもしれない。

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