《MUMEI》
モノクロの国
ラナ砂漠を抜けてから早一週間。魔剣士と少女の奇妙な二人組は、大陸最北端の小国、ウェルー王国に来ていた。かつて、魔剣が封印されていたという伝承の残る地だ。

魔導汽車に揺られること5日。灼熱の砂の世界からは一変、極寒の雪景色の中を足で進んで2日。ようやっと辿り着いた国境門を潜り、音も無く舞い落ちるパウダースノーに迎えられ、踏み入れたのは入口の街、クローム。現在は街の中心へと続く路地を歩いている最中である。

厚く降り積もった白雪の屋根と、雪道の合間に覗く黒煉瓦造りの街並みは、中々に趣のある情景だった。生まれが南のラミアにとっては目に映るもの全てが新鮮で、初めての発見だ。

但し活気は無く、人気も商店の立ち並ぶ表通りでも時折忙しそうに歩くコート姿とすれ違う程度だ。

入国関門の警備員曰く、超寒冷地故の過ごしにくさから最近は過疎が進んでいるらしい。

それでも、本音を言えば声を上げてはしゃぎ回りたかった。

しかし、そんな浮ついた高揚感も、隣を見れば秒速で冷まされる。

まるで歩く銅像のように物言わぬ剣士、デルタ。

南から北までの道のりは決して短くは無く、道中装備を整えに買い物をしたり、迷って寄り道をしたりもした。彼等もお互いの理解を深めるには十分な時間があった筈なのだが‥。

「‥‥」

「‥‥」

「寒いね‥」

「ああ」

「‥‥」

雇い雇われの関係から正式に仲間として昇格した二人の距離は、依然として縮まっていなかった。

「本当に‥ここに魔剣があるのかな?」

ラミアは気まずい空気に潰されそうになりながら、必死に語りかける。
が、そんな彼女の努力を知ってか知らずか、相棒の魔剣士からは「さあな」と愛想のカケラもない返事しか返って来ない。

考えてみれば闇市で声を掛けた時も、細かな事情は全く勘ぐらずに「別に構わない」といきなり了承しては一言も喋ることなく遺跡まで着いて来た男だ。
もしかしたら他人とのコミュニケーションにそもそも興味が薄いのかもしれない。
旅路を共にするとは言ったものの、彼の目的も魔剣に関わっているという事以外何一つ明らかになっていない。
彼が自分から話してくれるまでと訊かずに居るのは期待し過ぎだろうか‥。

一人でそんな思考に頭を抱えていると、背後から「お嬢さん」と嗄れた声に呼び止められる。

「?」

振り返り見た声の主は、ボロ布に身を包んだみずほらしい老人だった。両手で大事そうに抱えたお椀には、パン一つ分にも満たない僅かな小銭が入っている。

「あんたがた観光客だろう?この街に古くから伝わる魔剣の伝承に興味はないかい?」

にんまりと笑みを浮かべたしわくちゃの顔から、ラミアは言いようのない不気味さを感じた。

「行くぞ」

相手にするな、とデルタの手が肩を引く。しかし、ラミアは敢えて「待って」と言い、財布から札を一枚、老人のお椀に入れる。

「聞かせてちょうだい。魔剣の伝承ってやつを」

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