《MUMEI》
伝承の地
『200年前、世界は一度滅びかけた。水は濁り、大気は汚れ、草木は枯れ果て、人々の間には原因不明の疫病が蔓延した。後に暗黒の時代と名付けられたそれは、たった3年で人類の数を10分の1にまで減らしたという。
もう誰もが生きる希望を失い、全てを諦めようとしたその時、5人の天才と呼ばれた魔導師が立ち上がる。

彼等は己の魔力を命諸共術式に変え、剣の形をした魔道具に組み込んだ。

火の魔導師ゴヴェルは焔を自在に操る力を。水の魔導師レティアは水を生み出し統べる力を。風の魔導師セフィラは大気の流れを支配する力を。地の魔導師ガラナは大地と対話し、役する力を。そして光の魔導師アルカナは、あらゆる病傷を癒す力を、それぞれ一本の剣に封じ込めた。

魔剣の誕生である。

魔導師たちは、それを自身が最も信頼できる人間に託した。

託された者たち‥即ち史上最初の魔剣士たちは、瞬く間に地上を再生させていった。腐った森を焼き払い、涸れ川に水を引き、新たな緑を育んだ。

そして人がかつての栄華を取り戻した様子を見届けた後、何処かへと去っていった。

以来、彼等と、魔剣の行方を知る者はいない』

骨張った弱々しい見た目に反し、萎んだ唇から流暢に語られる魔剣伝説。

前半はラミアも知っていたが、魔剣の創造主の名前はまでは知らなかった。それに、魔剣にも個々の特徴があるということも初耳だ。

「ずいぶんと詳しいな」

始めは渋々といった体で壁にもたれていたデルタが、いつの間にかラミアの隣で老人に警戒心剥き出しの眼差しを向けている。

やはり一般的な魔剣伝説はラミアも知っていた最初の部分だけらしい。

刺すような視線に対しても、老人は「まだ終わっとらんよ」と軽く笑って受け流してしまう。

「ここからが、この地に伝わる魔剣の物語さ」

木枝のような人差し指を立てながら、嗄れた声は続ける。

「ここ、ウェルー王国は大地の魔導師ガラナの妻、セラの故郷だったそうだ。ガラナは魔剣を彼女に託した。セラは夫の死を悼み、全てが終わった後は、自らの故郷で彼の魂を宿した魔剣と共に静かな余生を送ったといわれている」

「大地の魔剣‥」

ラミアが徐に口にした言葉に老人は苦笑して頷いた。

「そう。セラはよく薔薇を好んで咲かせていたことから『荊の剣』と呼ぶ者が多かったそうだがね」

『荊の剣』‥。
そう聞いて真っ先に思い浮かんだのは、あの遺跡で、荊を操り、化け物を倒した魔人の姿だった。

当のデルタ本人は、既に知っている内容だったのか、特に表情を変える事もなく老人を睨み続けている。

「そんな怖い顔しなさるな。長く生きてると知識だけは増えるもんなのさ」

「色々、な」と付け加え、老人は笑みを崩さぬまま、お椀に入った札を嬉しそうに眺める。

「あのっ‥ありがとう。お話、聞かせてくれて」

物語に熱中する余り忘れていた礼を言うと、老人は札をひらひらとつまみ見せながら

「こちらこそ、優しいお嬢さん。あんたらとはまた会いそうな気がするよ」

と言い残し、裏路地へと消えていった。

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