《MUMEI》
序2
不意に、意識が旋律を捉えた。
誰かが何処で鍵盤を叩いているのだ。
立ち上がり、音のする方向へ歩き出す。教会のすぐ近くにある、所々崩れた長い塀を辿ってみる。辛うじて繋がる壁が途切れた場所で、その正体を知った。門だったらしい柱部分には何も残っていない。
「学校、か」
自分の呟きが、内側に吸い込まれるような気がした。
無心で、耳を澄ましてみる。しばらく。
「おーい」
踏み込もうとしていた長い塀の敷地向こうから、風にのせるように声がする。帆布の鞄を細い肩にかけ、ひょろりと高い身長の同行者である少年が、奥からやって来て、前に立った。
「井戸、あったんやけど」
どないする? と聞かれる。
「そりゃ汲んで行くでしょ」
答えて、自分から呑み込まれるようにそこへと足を踏み入れた。

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