《MUMEI》

 叶人はカナの見知らぬ女性に押し倒されていた。
「誰…?」
「ワタシのコトかしら」
 叶人を押し倒した女性が身体を起こし、その切れ長の双眸でカナをとらえていた。
「…“カナト”はこんな小娘に仕えているのね」
(こんな、とは失礼な!)
 カナは彼女の言葉に憤りを覚えた。彼女は如何にも、貴女に彼は相応しくない、そんな目でカナを見据えている。
 確かに、外見年齢からすると、カナより彼女の方が叶人に近い。
 漆黒の長い髪に、漆黒の切れ長の目、それらを引き立たせる白い素肌と肢体。カナより強い独特のオーラを放っている。
「カナトがアナタに仕える意味は無いわ」
(…?)
「アナタに彼は相応しくない。あの時、そのままヤられちゃえばよかったのに」
(あの時…!)
 4日前、宇川に襲われそうになった。彼女の言う、あの時とはそのことだろう。
(あれは仕組まれていたの…?)
「なんでそのことを知っているんですか?」
「アナタが知る必要は無いわ」
 カナの問いに彼女が即答する。その質問がくるのを予知していたかのようだった。
「…、邪魔よ。出てってくれるかしら」
「ここは私の家です!なぜ私が出なければいけないんですか!?」
「口答えするな!」
 彼女は叶人から身を離す。そして、カナに近づいていく。
 ―パシンッ…!
「…っ!」
 カナは彼女に頬を打たれた。そこはジンジンと熱を孕み、痛みが増していく。
(叶人さん、助けて…!)
 カナは縋るような視線を叶人に送った。
しかし彼は、ろくに目を合わそうとしない。苦しそうな表情でカナから目を逸らしている。
(もう、やだ………!)
 叶人が遠く感じて、辛くて、苦しくて。自分の家なのに、居場所が無くて。
「カナっ!!!」
 カナは自分の居場所を求めて、其処から飛び出した。

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