《MUMEI》

「俺達の仲を疑うってことだよ」
怠そうに乙矢は溜め息を吐いた。



「幼なじみなんだし今更」
乙矢との間を疑うなんてあるはずがない。

更に乙矢は深い溜め息をついて言った。



「…………俺が、不味いの」

俺の頭を鷲掴む。椅子から下りて耳元で囁かれる。

「二郎見てたら発情する。」

乙矢の鋭い眼差しと視線が合う。斜め角度に上がった口から長めの舌が覗く。
続いて口が開き並びの良い白い歯が見えた。

鼻先がむず痒い。


 「…………………ハイ?」


なんか、乙矢変だ。
鼻先を触ると少し濡れていた。




「二郎は俺の初恋だから。」

いつもより愛想よく笑った。
女子なら叫ぶところだ。


「からかうなよ!」

今やっと理解した、乙矢に鼻を舐められたのだ。両手で鼻を覆う。


「欲求不満だから、近付かない方がいいって忠告。
二郎も、最近オーラが増してるから。」


「おーら?」


「その気にさせるやつ。嗜虐心が沸々と湧いてくるよね。七生に襲われたりしてないの?」
悪びれる様子もなく聞いてくる。


「んな訳あるか!会う時間もないんだから!」
頭にきた。
やっぱりからかってる!


「そんな怒ると疲れない?」


「疲れさせてんだろ!信じてたのに!」

乙矢は俺の理解者だって信じてたのに。
出てってやった。


裏切られた気分だ。

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