《MUMEI》
子供がするように嫌々と首を振る七星
だがお天道様は気に掛ける様子もなく、また七星へと手を掛けた
嫌だ、死にたくない
「……嫌、嫌ぁ!!」
痛みと恐怖で我を忘れ叫び始める
徐々にお天道様と七星の距離がなくなり、そして
喉元に刃が立てられる瞬間、横から伸びてきた手にソレは遮られた
片岡の腕
お天道様の刃が肉に食い込み血が流れ出ている
「……何処まで邪魔をするの？人間」
深いその傷に大量の血を流しながら、だが其処を退こうとはしない片岡へ
お天道様は更に苛立ち、また刃物を差し向けた
「……嫌な目。だから人間は嫌いよ」
死ねばいいのに、と吐き捨て、刃物が片岡へと振り下ろされる
だが目の前が霞み、避ける事が出来ない
「……愚かね。。何故こんな天道虫一匹の為に此処までするの？」
寸前で刃物を止めたお天道様からの問い掛け
片岡は口元を不敵に緩ませ
「ヒトってのは、そう言う生き物だからだ」
確かに、傲慢な処も多分にある
だが、他人を切に思えるのもヒトで
だから自身がどれほど傷付いても手を差し伸べるのだ
「……主」
「お前も、やっぱり人間は嫌いか？」
七星へと問う事をしてやれば、七星は首を横へと振って見せ
片岡を見やりながら
「……人は、まだちょっと苦手。でも、主は、平気」
他人もこれから好きになっていける、と
七星は片岡へと僅かに笑みを浮かべて見せた
「……天道虫の癖に。どうして、人を選ぶのよ!!」
癇癪を起したかの様に起こり始めてしまったお天道様
刃を剥き出し、表情を醜く歪ませて怒る姿はいっそ哀れで
七星はお天道様の方を見やりながら
「……だって、怖くないから」
はっきりとした声で返していた
人は正直怖いと思う事の方が多い
だがその中にあっても片岡の傍らは居心地がいいのだと
訴える七星へ、お天道様の表情が更に歪んで行く
「……できそこないだとは思っていたけれど、ここまでだなんて」
顕わにされる怒の感情
また刀を七星へと差し向け、喉もへと突きつけていた
「……これで、最後。ヒトを捨てて私の元に来なさいな」
最後通告だとのお天道様に、七星はやはり首を横へと振って見せる
その様にお天道様は蔑む様な視線を向けるとそのまま踵を返し
「そう。なら、貴方も一緒に朽ち果てればいいわ」
低く響く、お天道様の声
ソレに反応するかのように陽光が更に強まり、熱を帯びて行く
その熱は土を焦がし、人をも焦がす
至る処から、ヒトの悶える様なうめき声が聞こえ始めた
「七星!!」
その熱から少しでも庇ってやろう片岡は七星を抱く
いつも守られて、許される。けれど
「……ごめんなさい、主。私、何も出来ない――」
「いい」
「でも、私――!」
片岡の目を焼き、そして今その身全てを危険い晒している
助けたい、救いたい。そう願っているのに――
「や、めて。やめて――！」
何も出来ない自分に苛立ち、七星は喚く声を上げた
喉が痛みを訴えてしまう程に強く
その声に、お天道様は七星を見下し、嘲る様な笑みを見せる
「消えて、しまいなさい。人なんて――」
「そんな風だから、嫌われちゃうの!!」
人が自分たちに向けるのは、蔑む様な視線
あれは、これまで天道虫達がヒトへした仕打ちへの報復
このままではどうあっても分かり合える筈などない
「お天道様、周りを見て！生きているのは、私達だけじゃない！」
七星の懸命な訴え
だがお天道様は聞く耳など持たず
「……その他は、要らない。どうせ、居ても無駄なのだから」
言葉に笑みを含ませ片岡の方を見やった
重なる、互いの視線
「……嫌な目を、するのね。私を拒む醜い目」
目の前が、眩しい
白く霞んだ視界が徐々に赤いソレへと変わり、痛みすら覚える片岡の目
だが片岡は目を閉じる事はせず、お天道様を睨みつけていた
「何、なの。お前、ヒトの、癖に ――！」
目を開いているのも難しい程の日差しの中
それでも睨む事をやめない片岡との距離を取ろうとお天道様が身を翻した、次の瞬間
お天道様の腕が突然い嫌な水音を立てもげ落ちた
突然のソレにお天道様は驚き
何事が起ったのか混乱の渦中に陥る

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