《MUMEI》
6
いつ巳を相手に話し続けていると、つまらない教師のような説教じみた言葉を吐き出してしまう気がしていた。最後に見た友人、彼女の表情を、もう思い出すこともできないのに。
「じゃあ、あなたは待っているんですね」
「何を、待っているって」
何気なさを装うとする。
「彼女が戻ってくるのを」
「戻って来ないと言ったろう」
「でも、待っているんでしょう」
なぜ、女だとわかったのか。砂山は友人としか言っていない。
どうでもいいことを考えようとして、本筋からは逃げられずに観念する。
いつ巳の見つめてくる容赦のない真っ直ぐな瞳が意味もなく恐ろしくなって、ただ、力なく首を左右に振っていた。恋人を待ってなんかいない。信じてなぞいないのだ。

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