《MUMEI》
8
「神様なんて。あたしは、どこにもいないと思っています」
神を信じない人間は、一体何を信じるというのだろう。所詮、迷いや恐れを知らぬ子どもだから、とは言い切れない。
いつ巳の瞳が強い光を湛えているのは、一つの証明でもある。
世界が滅びなくても、人は誰でも死んでいくものだ。
ならば、何処で朽ち果てていくとしても、大した違いはないじゃないか。
砂山はずっと、そう思ってきた。
重要なのは何処ではなく、誰と。なのか? 一人ではなく?
いや、死ぬときは誰しも孤独なのだ。生き長らえるのではなく、どう生きていきたいのか。
「仕方がないから教えてやるよ。楽園の入口への道筋を」
「礼を言った方がいいですか。いいんでしょうね。結局、あなたは、ここで待ち続けるんですか」
聞かれて、
「意気地なしなんでね」
と答える。
恋人の残像が少女と重なって、あやふやになってしまう気がした。
思い出も記憶も、自分自身でさえも。そうして全て風化していってしまうのだろうか。
だから早く。なくしてしまう前に。
今のうちに姿を消してくれ、と続けるつもりはない。
いつ巳は、それ以上の言及を何もしようとはしなかった。

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