《MUMEI》
終2
教師風情のあの男がどんなつもりで、誰もいなくなった学校にある鍵盤楽器を弾いているのかは知らない。知ったことではない。知ってたまるか。
信じるものを求めながら、迷い惑って疑って、運命に殉死することを受け入れてしまう男に興味なぞない。何もしないで緩慢に朽ち果てるには、まだ早すぎる。
「あのさ、神様っていると思う?」
「はぁ? そりゃあ、いるんやないの。まぁ、いなくてもええけどさ」
十字架を見上げ無造作に答えた少年は立ち上がると、自分の尻を思い切り良く叩く。
「寄り道せんで、ちゃんと汲んできたんやろな、水。寒なってきたし、もうそろそろ行くで」
少年にとって重要なのは、目前の現実なのに違いない。形なんて大事ではないのだ。いずれ形のあるものは、泡沫のように消滅していく。地上にしろ、地下にしろ、誰といても、一人きりになったとしても、違いはない。
「河島くん、一人で淋しかったんじゃない」
少年の名は、河島詠午といった。
「言うとくけど、男ってのは意外とロマンチストなんやで。知らん男に簡単に絆されんよう気ぃつけや」
俺は違うけどな、理系やからなと言い放ちながら、もう勝手に一人で歩き出している。
行き先を決めてもいないのに、迷いなく前へと足を踏み出してしまっているせっかちな少年の後ろ姿に、思わず苦笑いする。
例え世界が滅亡しても、自分が歩いてきた足跡を信じているから、生きていけるのだ。

       終幕

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