《MUMEI》 ああ、そうか。この子供は後悔しているのだ 「……こんな悪夢、僕だって見たくないよ」 もう、どうにも出来ない状態だと解って居ながらも 引き金に掛けた指をどうしても引けないでいる 「甘いな、夢喰い」 低い声が響き、ソレに呼応するかのように現れ始める何か 定まらない姿が段々と形を成し、そして見えてきたソレは 巨大な、獏だった 「……喰ってしまえ。何もかも」 その声を合図にその獏は口を開く そして、其処に在る全てを吸い込もうとするかのように大量に息を吸い始めていた 「何、するつもり?」 段々と壊れて行く辺りを見回しながら問う事をしてやれば ナイトメアは僅かに肩を揺らし 「夢と現の境をなくす」 「……何の、為に?」 夢と現 本来、全くの別物であるはずのソレを混ぜ、一体何をしようというのか 解る筈もなく怪訝な表情を浮かべるメリーへ ナイトメアは更に笑う声を上げながら 「さて、何の為だろうな」 答えるつもりがないのか、はぐらかす様なソレ メリーは苛立ちにため息をつくと引き金に指を掛ける 「答える気がないなら、別にいいよ。でも、君は少し、遊びすぎた」 夢喰いとしてそれだけは見逃せない、と睨みつければ ナイトメアの表情がに変わり、少年本来のソレに変わる 「……ごめん。こうすればあいつ、生きていけると、思ったから」 その口から語られるのは事の顛末 ヒトとしてではなく(夢)としてならばその存在を保っていける 一緒に居る為に、その境をなくそうとしたのだと 「……でも、正しくないよ。こんな事」 これではどちらとも救われない 救ってやるにはこの(夢)そのものを終わらせるしかない 「……結局、僕は何も守れないんだ」 壊す事は出来ても、この小さな存在すらまともに守れない そんな自分にひどく腹が立った 「終わらせて、くれよ。もう、こんな夢見たくな ――」 懇願する言葉も途中、少年の意識が途切れる ああ、もう駄目か ナイトメアの嘲る様な表情を見ながらメリーは奥歯を噛み締めた 「考え事とは随分と余裕だな。夢喰い」 低いその声に我に帰れば 目の前に、巨大な獏が湧くように現れる 「全部、喰ってしまえ」 口を開いた獏が間近 喰われてしまう、と何とか身をよじるが間に合わず どうすることも出来ず、そのままで居ると (駄目 ――!) 妹の声が聞こえ、羊がメリーを庇う様に其処に現れた だが、小さな羊に何が出来る訳もなく、メリー共々獏に喰われてしまう 「……馬鹿だね。君」 ゆらり揺らめく獏の中 つい共に漂う羊へと苦笑混じりに呟いた 見れば小さく震える羊を懐へと入れてやり これからどうしたものかと思案し始める 辺りを見回しながら歩き始めたメリー 暫く、何もない黒の中を進んでいると ぼんやりと光を放つ何かを見つけた 何なのだろうかとメリーが近く寄るよりも先に、羊が腕から飛んで降り その何かの元へと走っていく 近づき、段々とはっきり見えてきたソレは 馬が一つしかない、メリーゴーランド その馬に乗り、回り続ける人影が合った 「……何、してるの?こんな処で」 ソレは、ナイトメアに憑かれ、消えかけてしまっている少年の自我 メリーに気づき、向けてくるのは何も移す事のなくなってしまった虚ろな視線だ 「な、夢喰い。全部、壊してくれよ。こんな夢、もう嫌だ」 脚元に擦り寄る羊を抱え上げ、撫でてやりながら懇願する様なソレ 消して欲しい、喰ってほしいとの少年に、メリーはだが何を返す事も出来ない 結局、自分は内を救うことも出来はしないのだ 歯がゆさに奥歯を噛み締めながらメリーは銃を取って出すと撃鉄を起こす 「……最悪だよ。本当」 出来ることならば殺したくはない いつの間に自分はヒトにそんな感情を抱くようになったのか いまさらに気づいた自身の変化にメリーは肩を揺らす 「でも、このままって訳にもいかないし」 何にせよ成すべきことを成さなければ何も救われない 否、これは救いではない。只の、人殺しだ 解って、居るのに 「……おいで。僕の、羊」 メリーが低い声色で羊を呼ぶ 現れた巨大な羊を撫でてやりながら、メリーは前を見据える どうしても躊躇してしまうメリーへ、少年は満面の笑みを浮かべて見せた 前へ |次へ |
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