《MUMEI》

「うぅ……っ」
 カナは泣きながら歩き、いつの間にか見知らぬ場所でさまよっていた。
(胸の奥が痛い…)
 張り裂けてしまいそうなくらい、胸の奥が熱くて痛い。苦しい。
(つらいよ―――…)
 見上げると、空は厚い雲に覆われている。
(あの雲が、カナの心を守ってくれてたら良かったのに)
 ―――ポツリ。
 冷たい雫がカナの頬を伝う。
 次々と冷たい雫がカナの体に降り注ぐ。まるで、熱くなった胸を冷やそうとしてくれたかのように。傷ついた心にできた隙間に染み入るように。
(俄雨かな…?)
 土砂降りの雨がカナの身体を濡らし、熱を奪っていく。
(帰らなきゃ…)
「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているの?」
「こんな雨の中じゃァ、風邪引いちゃうねェ?」
「お兄サンたちのトコロにおいで?温めてアゲルヨ?」
 目つきがおかしく格好がだらしない、中年男の集団が、カナを取り囲んでいた。彼らは何かに飢えた目でカナの身体中をジロジロと見ている。
「ねェ?」
(見るな、来るな!)
 カナは必死に逃げ道を探す。カナ1人に対し、男10人。彼らは隙間を上手に埋めていて、逃げ道は存在していなかった。
「お兄サンたちと遊ぼーよォ。そんなコワい顔しないで、さァ?」
(怖い………!)
 男達の声に身体が竦む。射竦められて身体が石のように固くなって動けない。
「そんなに怯えちゃっててかわいいなァ?」
(誰か…!)
 カナは胸の前で手を組み、祈ることしかできなかった。
「助けを祈る必要なんて無いヨ?」
 1人の男がカナの肩に手をのせる。
「よく祈ったね」

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