《MUMEI》

「うあ....あ」


アヤの口から出てきたのは、意味を成さない呻き声だけだった。


「ちょっと、他の部屋を探させてもらうよ」


後から入って来た方がこれも消音器付きの拳銃を握ったまま、相棒のわきをすり抜けて奥の部屋の方へと歩いて行く。


カーペットに泥の跡を刻みながら。


たった今アヤの母を射殺した事など無かったかのように。


その様子はまるで、慣れ親しんだ友人の家に遊びにでも来たかのようにさえ見えた。


轟々(ごうごう)とアヤの頭の中で、外の雪嵐と同じ音が響きだす。


「おい待て....」


先に入って来た方が、奥に向かう双子のような相棒に呼びかけた。


「ん?」


足を止め、呼びかけた男の指さす先を見た相棒が、「おやおや」と言う。


男の視線の先....
壁のTV電話には、鬼のような形相でこちらを睨むダイスケの顔が映っている。
それは家族の前では見せた事の無い顔だ。


「娘に手を出すな。もしも指一本でも触れてみろ。俺は貴様らを....」


画面のダイスケが歯をぎりぎり軋らせるように言った。


「どうすると言うのかな?お前に何が出来るのだ?
裏切り者め。
娘が心配なら早く家に帰って来る事だ」


男は床上のリモコンを拾いあげると、さっさとTV電話を切ってしまった。


「さてと....」


男のサングラスが床上で腰を抜かしたままのアヤを見下ろした。


「どうする?娘も始末しておくか?」


何の感情も無い声で相棒に聞いた。


「そうだな。そうするか」


「いやぁ....」

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